第103話 魔族にまでバケモノと
「追いついたよ魔族さん」
お互いに風の魔法で飛行するが、魔力の出力は僕のほうが上だ。
数分もすれば先に飛び出した魔族に追い付く。
すると魔族は僕のことを憎たらしい視線で睨んだ。
性別は男か。
インテリっぽい陰湿さを感じる。
「クソッ! お前は何者だ。俺の速度に追い付くなど人間には見えないな」
「いやいや、どこからどう見ても普通の人間だろ」
「外見以外はとてもじゃないが人間には見えん! お前が人族の勇者というやつか?」
「僕が勇者……? ははは。違う違う。僕は単なる魔術師だよ。勇者と一緒にしないでくれ」
「戯言を……お前のような普通の魔術師がいるか! 追い付かれたのは誤算だが、しょうがない。この
「ほー。やる気じゃん。すぐに逃げるかと思ってたのに」
意外だ。
追いつめられると逆らおうとするタイプらしい。
敵の全身から膨大な魔力があふれ出る。
「ふん! 逃げられるものなら逃げたいが、お前の魔力放出量はこの俺さえ超える。とはいえ人間の魔力総量では魔族には及ぶまい。持久戦に持ち込んで始末してくれる!」
「なるほどね」
たしかに魔力総量と魔力の操作能力——放出量は比例しない。
だが相手は思い違いをしていた。
僕は魔力の出力も高いが、最も自慢できる点は魔力総量なのだ。
僕にたいして持久戦は圧倒的に不利だと教えてあげよう。
肌を刺すような敵の魔力に応じて、僕も魔力を練りあげる。
凄まじい二種類の魔力が周囲を満たし、危険を察知した魔物や動物たちが森から逃走を図る。
ここまで魔力を練りあげて戦うのは、転生してはじめてだ。
ある意味、うまく手加減しないといけなくて大変だね。
「後悔しろ人間! 魔族を相手にたった一人で戦いを挑んだことを!」
先に動いたのは魔族のほうだった。
手のひらに全てを呑み込むような漆黒の魔力を凝縮し、それを迷わず正面にいる僕のほうへ飛ばした。
黒い光線のような一撃は、途中で四方八方に拡散し雨のように僕のもとへ降り注ぐ。
小さく拡散したにも関わらず、一般的な魔術師なら防御することすら不可能な魔力が込められた一撃だ。
油断すると消滅しかねない。
普通の魔術師なら——ね。
僕の場合は防ぐだけなら簡単だ。いつも通り魔力障壁を展開して敵の攻撃を受け止める。
これまでにないほどの衝撃が僕の魔力障壁を襲うが、それでも大量の魔力を込めた壁にはヒビすら入らない。
正確に飛んでくる魔法を全て防いだ。
「チッ! 硬いな。俺の魔法でヒビ一つ入らんとは……」
愚痴をこぼす魔族。
しかし、魔族は攻撃の手を緩めない。
今度は回転を加えた風と闇の魔法を組み合わせて黒き暴風を放つ。
二つの属性を組み合わせて放つ魔法は複合魔法と言われ、通常の魔法よりはるかに魔力操作が難しい。
なんせ二種類の魔法を混ぜて使うのだ、実質、同時に二つの魔法を使ってるようなもの。
それゆえに僕の周りには使えるものはいなかったが、魔族はそれを容易く使う。
先ほどよりも高出力の魔法が僕の障壁へぶつかる。
ガリガリと障壁を削ろうとしてくれるが、それでも僕の魔力障壁は破られない。
攻撃はともかく防御はいくら魔力を込めても周辺の地形を破壊しないで済むからね。
僕は攻撃より防御の方が得意なんだ。
存分に魔力を使った障壁は、たとえ地球が崩壊しようと破壊されない。
無限魔力の最も正しい使い道かもしれない。
「ぐ、うぅ——! これでもまったく微動だにしないのか!? 本当に貴様は人間か? 魔族以上のバケモノじゃないか!」
「……失礼な。ちょっと魔力が多いただの人間だよ」
ということにしておく。
魔族の放った魔法が僕の障壁を頑張って貫こうとし、代わりに周囲の地形をめちゃくちゃにしていた。
それなりの高さを飛んでいるのにそれでも地上へ影響が出るのはそれだけ魔法の威力、規模が大きい証拠。
アリシア達を連れてこなくて本当によかった。
彼女たちでは
僕が守れば問題ないとはいえ、さすがにこれほどの魔力放出は予想の範囲を超える可能性があった。
僕はあらためて自分の英断を褒める。
そして、魔力障壁を展開しながら同じように複数の魔法を前方へ飛ばす。
色鮮やかな属性の光線が、敵めがけて迫る。
当然、魔族のほうも魔力障壁を発動するが余裕のある僕と違ってガリガリと障壁は削られていった。
「さあて……お互いにどこまでもつかな?」
地形はボロボロ。つねに衝撃音が響くなか、僕は涼しい顔で笑った。
久しぶりにこれほどの解放感を覚える。
少しは頑張ってくれと、やや魔族を応援してみる。
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