あとがき

「『ぼくらは見つめ合い、どちらからともなく目を閉じた。』――っと」

 「第4話 妻と夏の終わりの花火」の最後の一文を書き終えると、わたしは編集画面右上の保存ボタンを押した。円環状の矢印がくるっと回ってすぐに保存が完了する。×ボタンを押して作品のホーム画面に戻り、文字数を確認する。9278文字。企画の上限が確か10000文字だから、ギリギリ越えてしまうかもしれない。

 カクヨムというインターネット上の小説投稿サイトがあり、『第一回・存在しない夏休みの思い出大賞』という企画があるようだ――夫がそう言ってきたのは8月上旬のことだった。

 ――妻、なんか書いてみない?

 それはいつものように突拍子もない、夫の思い付きの一言だったに違いない。だが、そのときのわたしは奇妙に浮かれていた(確かお酒も入っていた)。トントン拍子で話が進み、その場で色々話し合った。

 どんな話にするか。どういう書き方がいいのか。笑える話か泣ける話か。真面目な話かおちゃらけた話か。

 今まで小説を書いたことがないなら、実体験をもとにするのはどうか。

 そうして出来上がったのが、この文章になる。

 わたしたちの会話のノリを文章にしたときにどうなるかよくわからなかったので、夫が時々ツイッターで使っている変なタグ(※1)を参考にした。そのおかげで(……かどうかはともかくとして)、結構リアルに、普段通りのわたしたちの雰囲気を表現できたように思う。客観的に見たときに、面白いかどうかはわからないけど。


 時計を見ると8時30分を回っている。そろそろパートの時間だ。

 わたしはパソコンの電源を落として『ヴィラ・バリエーレ』203号室の部屋を出る。天気は晴れ。マンションの立ち並ぶ景色の向こうにはくっきりとした青空が広がり、夏の終わりを知らせるような入道雲が、白く雄々しく湧き立っている。

 田舎とは言えず都会であるとも言い切れない、なんだか微妙な立ち位置の、わたしたちの住む街。

 吹きつけてきた風からは、少し秋の匂いがした。


 ふと、スマートフォンの通知が鳴る。夫からのLINEだった。


 『職場の近くにネコチャンいた!!!!!!!!!!!!』


「知るか」

 わたしは吹き出した。


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※1 ツイッターの変なタグ:ハッシュタグ『既婚者の体でツイートする』で検索すると色々出てくる。

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平凡な会社員のぼくですが、家には世界一可愛い妻がいます~試験勉強とか追放して企画に一番乗りしようと思って書き始めたが、もう遅い~ 広咲瞑 @t_hirosaki

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