華やかな筆致や硬派な作品群に心打たれ、落ち着く間もなく横っ腹をキリトに刺される……そんな体験がしたい人にとって、この作品よりうってつけの作品は存在しないだろう。存在していなさでいえば、作中で語られる作品もまた同様である。
しかし本作には、関係性が存在している。宮澤伊織先生の述べた「架空の人物は実在しないが、架空の関係性は実在する」である。
突如として発生した架空ラノベ作家殺人未遂事件。
一人の作家と、その作品を愛し続けた一人のファン。
本作で綴られるその関係性には、まさしく500頁上下巻にも値する物語の分厚さが感じられた。存在の有無なんてものは、作家と読者の関係性の前では些末な問題なのである。何を言っているのか分からなくなってきた。とても面白かったです。