かけないえんぴつ
ひまりちゃんはえんぴつを持っています。
大事な大事な、お気に入りのえんぴつです。
けど、毎日持ち歩くそのえんぴつは何もかけません。
だって、そのえんぴつはとっても大きいのです。
片手で持てなくて、ひまりちゃんはいつもそのえんぴつを両手でだっこしています。
それに、そのえんぴつの芯はとってもやわらかいのです。
ふわふわで押したらへこんでしまって、とてもかけません。
そう、ひまりちゃんのえんぴつは、ひまりちゃんが一番お気に入りのぬいぐるみなのです。
「ぬいぐるみじゃ、かけないよ」
幼稚園のおともだちは言います。
「かけるもんっ」
なのに、どうしてでしょう。ひまりちゃんは、そのえんぴつで何でもかけるのだと言います。
一体、かけないはずのえんぴつで、何がかけるのでしょうか。
「何をかいたの?」
パパは訊きます。パパは、ひまりちゃんがウソを言う子ではないと知っているからです。
すると、ひまりちゃんの表情がぱっと輝きました。
「夜空に絵をかいたらねっ、星座になったの」
星と星とをつないで絵にしたら、キラキラ輝きだしたんだそうです。
「何座にしたんだい?」
どんな星座をかいたのか、パパは訊きます。
「ひまわり座!」
夜空に太陽の花を咲かせたのだという笑顔はとっても嬉しそう。きっと夜空がとっても明るくなったことでしょう。今のひまりちゃんの笑顔のようにまぶしかったんだろうと、パパは想像します。
お気に入りのえんぴつは、もちろん寝るときも一緒です。だから、ひまりちゃんは、夢のなかにもえんぴつを持っていきます。
夢のなかで、大きなえんぴつは大活躍。
夜空にかけば星座に、青空にかけばひこうき雲に、草原にかけばお花が咲きます。
とっても素敵なえんぴつなのです。
「ひまりの絵、僕も見たかったなぁ」
「じゃあ、今日は一緒に寝よっ。だから、早く帰ってきてね」
同じまくらで寝れば、きっと同じ夢のなかにいけます。
「うん、がんばるよ。おはよう、ひまり」
「おはよう、パパ!」
起きたら夢で何をかいたのか、ひまりちゃんはパパに教えてあげます。すると、寝ぼけ眼だったパパも次第に笑顔になるのです。
これがひまりちゃんのお家の朝のあいさつです。こうして、ひまりちゃんのお家は、笑顔で一日がはじまります。
きっと、今日はパパにえんぴつの活躍を披露できることでしょう。
何をかこうか、朝からワクワクするひまりちゃんなのでした。
ティータイム短編集 玉露 @gyok66
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