バカしかいねぇ世界の果てで!!

亜未田久志

第1話 混沌としてやがるZ!


 俺! 花村大輝! 大学一年生! 春! 今日から大学生になる! 俺やっと受かった! 二浪くらいしたけど! Fランとか言われてるけど! 嬉しい!

 そんな俺がスキップしながら桜並木を歩いていると。

 一枚の花弁が手の上に落ちた。

「……大学行ったら彼女とか、出来るかな」

 出来るかなじゃない、作るだ!

 そう決めて再びスキップを再開する。

「ビバ! キャンパスライf――」

『グハハハハ! お前らから選び出してやろう! 我らエースギアが!』

「なっ!?」

 目の前に突如として現れる機械で出来た蜘蛛の化け物。

 スキップしていた俺を奇異の目で見ていた通行人たちもそちらに視線を移す。

『そうだなァ…まずはお前だァ!!』

「きゃあ!?」

 小さい女の子が射出された蜘蛛の糸に囚われる。

 俺は走った、蜘蛛本体が女の子に迫る前に。

「させるかよ!」

 蜘蛛の前に立ちはだかる。

『は? 武器も無しに馬鹿なのか? 馬鹿はいらぬ! 死ねェ!』

 駄目だ。

 諦めちゃ駄目だ。

 せめて女の子を助けなくては。

 俺は蜘蛛に背を向けると、女の子を糸から解放した。

 しかしその隙に蜘蛛の前足の一撃が俺の背中を直撃する。

「いっ……でぇ……」

『次は痛いということも出来んぞ! 死ぬのだからな!」

 ――俺、本当に死ぬのか?

 走馬灯が見えた気がした。

 ――ああ、せめて大学生活満喫してから死にたかったなぁ。

「大丈夫! アンタは死なないわ! だって熱血漢バカだから!」

『この声は!?』

「だ……誰……?」

「問う前にコレを使いなさい」

 渡されたのは大きな鍵だった。

「つか……う?」

「問答無用! ゼータ起動と唱えるのよ!」

 俺は痛みを必死に我慢して息を思い切り吸い込んで、唱えた。

「ゼータ起動!!」

 瞬間、俺の周りが光りに包まれる。

 そして俺は、俺の姿は炎を纏う機械の化身と変わっていた。

「ハローヒーロー! 君は今日からファイナルゼータの一員だ!」

『なんだこれ、身体が軽い。もう痛くない……』

「それがあなたのZ、アーマータイプ:ファイア」

『俺のZ……これで俺は……』

「エースギアと戦える!」

 俺は蜘蛛の化け物と向き直る。

 炎の拳が真っ赤に燃える。

『小癪なァ! 馬鹿の集団が調子に乗るなァ!』

『バカバカバカバカバカうっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 俺の拳は加速し、蜘蛛を貫いた。

『え、エースギアに栄光あれェ!!』

 爆散する蜘蛛、俺は紙を破いたかのような手応えに困惑していた。

『え、弱くね?』

「ま、所詮、下位個体ね、こんなもんでしょ」

『これどうやって解くの』

「アーマーパージと唱えなさい」

 唱えたら炎の鎧は鍵に形を変えて俺は元の姿に戻った。

「うわっ、よく見るとパーカーダサッ」

「!?」

 新選組の誠の文字が入った青いパーカーだったのだが。

 京都土産の。

「あんた今まで彼女いた事は?」

「え……ないけど……?」

「友達は?」

「いない……」

「合格!!」

「えっえっなにが!?」

 その女は俺と同い年くらいに見えた。濡羽色のロングヘアを風にたなびかせながらこちらをまじまじと観察していた。

「私は玄野くろのマキ、選民武装組織エースギアに対抗するため結成されたレジスタンスであるファイナルゼータのリーダー」

「お、おお」

 すごい、その若さにして俺よりすごい役職についている。

「いい? あなたも今日からファイナルゼータの一員になるの」

「……あ、ああ」

 なんとなくそんな気はしていた。

 やるしかないのだろう。

 俺の好きな映画でも言っていた。

「大いなる力には――」

「そぉらぁっ!」

「ぶげらっ!?」

 いきなり腹パンを喰らった。

 意味が分からない。

「な、なにを」

「いきなり打ち切られかねないパクリをするなぁー!」

「は? は?」

「いいかバカ! Zはバカにしか使えない!」

「えぇ……」

 エースギアとかいう化け物といい、このクロノとかいう女といい、地元の「やーいFランwww」と煽ってきたヤンキーたちといい、人を馬鹿にしすぎじゃないだろうか。

「お前! 1+1は!」

「2だよバカ!」

「だれがバカだあ!」

 もう一回腹パンを喰らった。

 俺は悶えながら、なんとか両の足で立っていた。

「的確にみぞおち狙いやがって……」

「ちょうどそこにみぞおちがあったんでな」

 もう嫌だ。

 こいつとは縁を切ろう。

 鍵を差し出す。

「これ、返す」

「は? 無理だが?」

「は?」

 言うに事欠いて無理とはなんだ?

「一度、発現したZは能力者に張り付いて離れないぞ?」

「うわなんかチェーンついてる!? どこにつながってんのこれ!?」

 なんか身体の中心、それこそさっき殴られたみぞおち辺りに鎖で鍵が繋がっていた。

「普段はズボンのポケットにでも入れとくんだな!」

「えぇ……一生これついてくんの……セックスの時とかどうすんの……」

「お前がセックスする時なんかこねぇ! あと女の子の前でセックスとか言うなあ!」

「ぶぐぁ!?」

 またみぞおちに一発喰らった。

 これで3発目だ。

 こいつ嫌い。

「お前、いっちょ前にリクルートスーツなんか来てるけど……」

「どう?」

「似合ってないからなこの童顔女……髪切れ髪……」

「……」

 腹パンは飛んで来ず、ただ真面目にクロノは落ち込んだ。

 よし勝った。

「……アンナイスル……ファイナルゼータノキチ……」

「……ごめんなさい」

「……コッチコソナグッテゴメンネ……イコウカ……」

「……あの……スーツ似合ってるよ……?」

「ホント!?」

 あっさり復活しやがった!? 簡単なやつだなあ!?

 俺は一抹どころじゃない不安を抱えながらファイナルゼータの基地とやらに向かうことになる。

「いやいや俺、大学行かなきゃ」

「ああ、それならもう退学届け出しといたから」

「はぁ!?」

「日夜エースギアと戦うファイナルゼータに大学に行く暇などないのだーハーハッハッハ!」

 理不尽ここに極まれり。

 ファイナルゼータ――そこに救いはあるのか。

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