第2話 ファイナルゼータという名の仮眠室


 出オチじゃねーか!!

 そこはプレハブ小屋の群れだった。

「ささっ入って」

 その中の一つに案内される。

 そこには布団が一式とちゃぶ台があるだけだった。

「クロノさん? これは?」

「ユーアーホーム! オーケー?」

「ノーオーケー!!」

 意味分からん英語の応酬。

「ただの掘っ立て小屋じゃねーか!」

「うっせーな! ファイナルゼータは慢性的な金銭不足なんだよ!!」

「やめちまえそんな組織!!」

 というかこんな工事現場みたいな場所、エースギアに見つかったら一瞬でお陀仏じゃないか? その旨を問うと。

「あのねぇ、いくら見た目は掘っ立て小屋の群れでも此処にいるのは歴戦のヒーローたちよ? そこに刺客を送り込むなんてそれこそ一人で国に戦争を仕掛けるようなものだわ」

「そういうもんか……?」

 いまいち納得しかねたが、今は信じるしかない。

「で、俺は此処で何をすればいい」

「24時間待機!」

「……食事は出ますか」

「カップ麺!」

 ここはとんだブラックだったようだ。

 俺は夢のキャンパスライフをこんなものに塗り替えられたのか。

「ちょっと仮眠していいか……」

「どぞどぞ、あんた一体倒したしね。それくらい許されるでしょ」

「……」

 もうブラック度合いには言及しないでおく。

 俺がちゃぶ台をどかし、たたまれていた布団一式を広げ寝ようとした時だった。

 ベニヤ板で囲まれたこの土地の真ん中に立っているサイレンから警報が鳴り響く。

「……いやだ」

「出番よ!」

「いやだぁぁぁ」

「いいから行くわよバカ!」

「バカじゃなーいー」

 俺はクロノに引っ張られて外に出る。何やら無線機を取り出すクロノ。

「ドラゲn――」

「古いんじゃボケがー!!」

「ぶげらっ!?」

 腹パンを喰らった。

 今日で4回目だ。

「いいかバカ! B地区にエースギアが出た! 急いで向かうぞ!」

「B地区……? 遠くね……?」

「大丈夫だ。ゼータ起動!」

 鍵を取り出したクロノが唱えるとそれは杖になった。それを振るうと世界が回った。景色が回り切った時、そこは掘っ立て小屋の群れではなく都心の一等地だった。

「は?」

「これが私の力。ケインタイプ:ワープ。即座に現場にヒーローを派遣できるようになっているわ」

「……すごいけど、それじゃあ」

 それじゃあ君は何時眠れるんだ。とは聞けなかった。

 その瞳があまりに決意に満ちていたから。

 現場には機械の魚が浮いていた。

「あれが今回のエースギアか……」

「2戦目なのにもう慣れてきたわね」

「ああ、なんとなくな、やってやるぜ、ゼータ起動!」

 俺の身がアーマータイプ:ファイアに包まれる。

 加速する右手、魚を貫く――かと思った。

「鱗が……かてぇ!?」

 蜘蛛のように貫けない。

 俺は一歩下がって様子を伺う。

「おい! クロノさん! こいつ魚の癖に尻尾から頭まで鱗でみっしりなんだけど!?」

「だったら焼け!」

「焼け!?」

 焼け――るのか?

 焼け――そうだな?

 焼け――る!

「うおおおお!!」

 俺は右手からレーザー光線のように炎を放射される。

 それは魚を焼き払い鱗を剥がした。

「今だ!」

「やったらぁよ!」

 俺は背中のブースター(そんなものが有った事に今気づく)を吹かして一気に拳を突き抜ける。しかし今度は蜘蛛と様子が違う。

『今日はバカが多いなァ……』

「だからバカバカバカうっせ……え?」

 それはだった。

 空中に大量の機械の魚が浮いている。

「は?」

「まずった! 群生型か!」

『バカを相手にするのは疲れるなァ』

 魚の目が輝く、熱線の嵐、嵐、嵐。

「うわぁぁぁ!?」

「くっ! ケインタイプ:ワープ!!」

 すると俺の前に二人の人影が現れた。

「ハッ! 新入り手こずってるみてぇだな!」

「共闘と行きましょう」

 金髪の男と赤髪の女。

 互いに剣を持っている。

 片や大剣。

 片や刺突剣レイピア

「あれは……Z?」

「ええ、そうよ、彼らもファイナルゼータの一員、あんたの先輩」

「先……輩……」

 剣が振るわれる。いともたやすく切断される魚たち。

「すごい、一撃で何匹ものエースギアを!」

「それだけじゃないぞ、レイヤ! ミコ!」

「了解!」

「イエスマム!」

 剣を掲げる金髪の男レイヤ。それは極光を纏い――

「これが俺の聖剣だァァァ!!」

 ん? ちょっと待て?

 片や刺突剣の方は炎を纏い。

「ちょっと待て、俺と属性が被ってる」

「細かい事気にすんなバカ」

 もしこれがフィクションなら、簡単に人をバカバカ言う作品を好んで読みはしないだろう。

「そうか? 洋画とか平気でホーリーシットとか言ってないか?」

「心を読むのはやめろ!!」

 極光は魚群の半分を吹き飛ばし、炎の渦はもう半分を焼き払った。

 まさしく二人の前では俺が手こずった相手は雑魚だった。

「これがオレのソードタイプ:ライトニング!」

「そしてこれがわたくしのソードタイプ:ファイアですわ」

「……アーマータイプ:ファイアです。あっ花村大輝って言います」

「お前ダイキって言うんだ!」

 クロノが今更の如く言う。こいつどうやって俺の大学に退学届け出したんだ。

「オレは青鉄あおがねレイヤ!」

「わたくしはミコ・レインアースと申しますわ」

「炎属性っぽくない名前だな」

「おい花村がなんか言ってる!」

 ことごとくクロノが俺の事をバカにしてくる。こいつ絶対人気投票とか最下位だよ。今からやろうよファイナルゼータ人気投票。俺は俺に一票入れるからさ。

「さて、顔合わせも出来たし、本題と行こうか」

「ん? 本題?」

「そう、全面戦争ファイナルウォーズについての話さ」

「ファイナルウォーズ……だと……?」

 なにそれかっこいい。

 なんか意味が被ってるファイナルゼータの1.5倍かっこいい!

「なんだ目を輝かせて」

「kwsk! kwsk!」

「分かったよ。あとお前インターネットのやりすぎ」

「あらツイ廃のクロノ様がそれを仰ります?」

「ああん!? ツイ廃じゃねーし! ツイッタラーだし!」

「どっちも変わんねーよ」

 ――ああ、そっか。此処ファイナルゼータってバカの集まりなんだっけ……。

 醜い言い争いで一向に本題に入らないまま、俺はただ街に沈みゆく夕景を眺めていた。

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