今きみが迎えるシンギュラリティ

 インターネット界隈を賑わせている生成AIイラストですが、ウェブ小説作家様でも利用されている方が見受けられます。

 私にも思うところはありますが、今回は生成AIイラストの可否について問うものではありません。


 過日、本文の描写とは異なる画像が生成されて

「わかった。あんたがそう言うならそうしよう」

 と、小説をAIイラストに寄せる選択をした方を見かけました。

 本人曰く問題ないようですが、私は「はて?」と疑問に思い、Xでアンケートを実施しました。質問と結果は、以下の通りです。


 *  *  *


生成AIイラストの賛否は置いておいて、例えばの話


自作小説に挿絵をつけたいけど、どうしても描けなくて生成AIイラストに頼ったとします。


ところが、小説本文の描写とは異なる画像しか出力できません。


その場合、あなたはどうしますか?


画像を破棄して挿絵は無しに 80%

注釈入りで画像をアップする 7%

小説をAIイラストに寄せる 7%

その他、リプで       3%

44票


 *  *  *


 言葉が足りなかったので、その他の意見がリプで付きませんでした。すみません。


 そして今回の結果に驚いています。


『画像を破棄して挿絵は無しに』が圧倒的多数、私も同じ意見です。

 小説の主たるものは文章であり、挿絵はその世界の具象化です。私もヘタクソながら絵を描いているので「たかが挿絵」などとは思いませんが、自分が紡いだ物語とは異なるイラストは、読者を裏切ってしまう結果を招くので、公開出来ません。


 スピンオフなら、有りかなぁと思いますが。

 実際『稲荷狐となまくら侍』では、小説に不向きな場面や物語を一枚絵や漫画にしています。また、作品の垣根を越えたセルフコラボイラストなんかも描いて楽しんでいますよ。

 自分がやっているからスピンオフを擁護しているだけだろう?

 そうです。作者自ら絵を描いている特権です。


『注釈入りで画像をアップする』少数ですが、これも理解したい気持ちはあります。

 絵師と言えるほどの腕前はなく、どう頑張っても落書きレベルを脱せないので、イメージしたとおりに描けない場合があります。


 自分で描けば、絵柄に合った描き方を模索したり隠して誤魔化したり出来ますが、生成AIイラストでは理想が叶うまで何度となくトライするほかありません。

 どうしても出力されない、それでもアップしたいなら、ミスリードをしてしまうリスクはありますが

「こうじゃないんだけど……」

 と、注釈を入れるしかないでしょう。


『その他』の詳細を頂けなかったので『小説をAIイラストに寄せる』を最後とします。


 冒頭でお察しかと思いますが、これが疑問の根幹であり、私には理解できません。少数とはいえ、票を得るとは思いませんでした。

 あなたは小説で物語を紡いだのです。それがイラストに従うというなら、どうして小説という手段を選んだのでしょう。

 挿絵も小説の一部であるなら、執筆と同時に挿絵も用意し、改稿を避けるべきではなかったのでは?


 これを執筆している現在、私は小説の書籍化作業を終えて、刊行日を心待ちにしているところです。

 その中で、出版社から提案されたカバーデザインが小説の内容に合わなかったので、一部の差し替えを依頼しました。

 そして私の意を汲んでカバーデザインを修正してくださったデザイナー様と編集者様には、感謝しかありません。

 これは手仕事だろうと生成AIだろうと関係ありません。物語のイメージを損なうビジュアルには、ノーを突きつけなければいけません。それほどにもビジュアルの印象は強烈なので、カバーデザインや挿絵、イメージ画像は重要なのです。


 それが例えば、読者や編集者や発注したイラストレーター様に

「小説の考証が間違っている。このイラストの方が正しい」

 と指摘され、納得して編集作業が間に合ったなら改稿するでしょう。誤った自分が悪いのですから、仕方ありません。


 AIの話に戻ります。

 日進月歩するAI、知覚を超える処理速度、人間を凌駕するシンギュラリティは、既にはじまっています。

 しかし『AIがそう言うならば、生成されたイラストに従おう』というのは、自らシンギュラリティに向かっていく行為ではないですか?


 あなたが描いたイメージは、生成AIイラストに屈服する程度のものですか?


 簡単に変えてしまえるイメージを、どうして執筆したのですか?


 あなたが描いた物語は、生成AIイラスト集ですか?


 小説が、生成AIイラストに支配されています。


 それはAIの進化ではなく、人間の退化です。


 小説は虚構です。しかし、あなたが小説に託した想いは虚構ですか? 物語にある真実は、あなたが紡いだ小説の中にあるのではないですか? あなたが書いた小説に、物語の真実はないのでしょうか? 生成AIイラストが物語の真実ですか?


 生成AIイラストに従う決めた方、『小説をAIイラストに寄せる』に投票した方には厳しい言葉を浴びせていますが、このような選択をされるようであれば、数多ある表現手法から小説を選んだ姿勢に対して、疑念を抱かずにはいられません。


 あなたが紡いだ小説の主たるものは、一体どこにありますか?

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お前の話は電車ばかり 山口 実徳 @minoriymgc

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