戦後復興期の鉄道員たちの矜持と苦闘を、淡々とした筆致でありながら読者を強く惹き込む語り口で描き出す。
作者の広範な知識と卓越した心理描写が相乗し、終戦直後の混沌とした日本へと読者を誘う筆力には驚嘆させられる。
本社・現場・労組・GHQといった多層の視点から展開される駆け引きや暗部の描写は、まるで同時代に立ち会ったかのような迫真性を帯びている。
専門知識の有無にかかわらず、名作としての風格を誰しも感じるに違いない。
彼ら鉄道マンが死守した日本のレールは八十年を経た今日まで連綿と続いているし、GHQがもたらした発想や技術もなお現代に息づいている。
読了後には、彼らが現代日本を目にしたなら何を思うのか、そんな夢想に誘われずにはいられない。
鉄道ファンであろうとなかろうと、作者の筆力によって引き込まれる隠れた名作。