こくはく

 わたしがどうして寝ているキミに話しかけるようになったのか。

 それをまず、言おうと思います。

 起きている時だと恥ずかしいのもあるよ。

 まぁ、そっちの理由の方が半分以上占めてるんだけど……。

 それでも、言いたかったんだ。

 だからね、練習しようと思ったの。

 同棲四年目になる前に、その……。


 あ……、愛してるって、言えるように。


 言えた。

 言えちゃった。

 すごい!

 これならもう、直接言える、きっと!


 えっ!

 なに……、なんで?

 お、起きてたって……!

 全部、聞いてたの!?


 えっ!

 えーっと……。

 あ、明日。

 明日、言おうと思ってて……。


 ……ううん。

 やっぱり、今、言う。


 わたしはキミのことを……あ、あぃ……。

 

 愛して、います。


 わっ!

 待って!

 まだ伝えてないことがあるの!

 だから離れて。

 お願い。

 ごめんね。


 あのね。

 同棲する時にお互い、仕事頑張ろうって決めたでしょ?

 夢を叶えたんだもん。

 キミにはそれを追いかけてほしかった。

 キミもわたしにそう言ってくれた。

 だから、今まで付き合ってこれたんだと思う。


 でも。

 でもね。

 わたしは、そんな気持ちだけじゃ、なくなっちゃった。


 今、お互い、大切な時期だよね。

 それが落ち着いてからでもいいのに、もう、待てなくて。

 でも、キミからも、言われたくないの。

 だからそれを伝えたらきっと、キミはわたしのこと、嫌いになる。


 ははっ。

 まだ聞いてもいないのに、嫌いにならないって断言しない方がいいよ。

 だから、静かに聞いてて。

 決心が鈍るから。


 ………………。


 わたしは、わたしの人生にキミがいなきゃ、もう、生きていけないって思うほど、キミを、愛しています。


 付き合って三年目の時も不安だった。

 別れちゃうかもって。

 ほら、よく言うでしょ?

 三年目は別れやすいって。

 それで今度は同棲三年目で、なにかあるかもって、思っちゃって。


 だから、わたしと結婚して下さい。


 わたし、安心したい。

 キミがこんな可愛げのない女から、離れていかないって。

 結婚しても、離れることはあるけどさ。

 それでも、キミと家族になりたい。


 だから、プロポーズ、受けてくれますか?

 それとも――。


 わっ!

 そんなに抱きしめないで……!

 え?

 結婚の話になるとわたしがちがう話題にしてたの、気づいてたの?

 えっ!

 わたしがキミと結婚したくないと思ってたの!?

 ……だから、不安だったの?

 ごめん……。

 気づかなくて。


 どうしてキミにプロポーズさせなかったのかも、話さなきゃ、だよね。


 あのね。

 わたしが全然気持ちを話さないのに、キミはたくさん伝えてくれる。

 付き合った時からずっと、変わらないよね。

 それなのに、わたしは言えないまま。

 こんなに長く付き合ってるのに、だよ?


 だから、プロポーズはわたしからって決めてたの。


 でも、女性からのプロポーズって、重いでしょ?

 だからそれで嫌われてもしかたないな、って。

 え?

 俺の気持ちはそんな簡単に変わらないって……。


 ほんとに?

 いや、疑うわけじゃないんだけど……。

 ん?

 わたしの気持ちは今話してくれたこと以外全部知ってて、それでも好きだから安心してって、どういう――。


 ………………は?


 え。

 えっと。

 え?

 あ、もう無理。


 バタン


 や。

 触んないで。

 無理。

 無理だから。

 うそでしょ。

 

 ぜ、全部、聞いてたって!!!


 寝たふりって。

 あれ、寝たふりなの?

 うそでしょ!?

 うそって言ってよ!!


 わー!!!


 やめて!

 なんでわたしの言葉覚えてるの!?

 メモ!?

 録音!?

 消して。

 今すぐ消して!!


 なに!?

 こんな俺だけどいいの? って?

 ……ばか。


 そんなキミだから、いいの。


 あ……、そっか。

 キミもそう、思ってくれてたんだね。

 なんだ……。

 一緒だったんだ、気持ち。

 

 え?

 どうしたの?

 目、閉じるの?

 ここにいればいいの?

 わかった。


 ん?

 わたしの手、なにかあった?

 え……。

 もしかして……。


 うん。

 目、開けるね。


 わぁっ……!

 とっても、きれい。

 でもなんで、指輪なんて持ってきてるの?


 いつでもプロポーズできるようにって、そんな、いつから?

 うそっ!?

 そんな前から!?

 知らなかった……。


 すごく、待たせちゃったんだね。


 それならもう一度、伝えます。


 わたしと結婚して下さい。


 ……はい。

 誓います。

 嬉しい。

 夢、みたい。

 ふふっ。


 キミを幸せにするね、とか言いたけど、なんかちがうね。

 うん。

 そうだね。

 それがわたし達っぽいね。


 これからも一緒に、幸せになろうね。


 だから、その……。


 わたしの気持ち、これからも聞き続けてくれる?

 寝たふりしてるキミにじゃなくて、ちゃんと顔を見て、伝えるから。


 誰よりもキミを、愛してるって。




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照れ屋な彼女のささやき事情 ソラノ ヒナ @soranohina

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