第32話 お着替えと川遊びと魚獲り
「でっか~~~い!」
と思わず胡桃が叫ぶくらい、仁チームのテントは大きかった。
縦も横もめちゃくちゃ大きくて、胡桃なら普通に立って歩けるくらいのサイズがある。
もはやチョットした家だ。
「えへへ~。双葉とにぃちゃんの秘密基地い~でしょ~!」
中では双葉が物凄いい勢いでテントの中をコロコロしている。
この大きさなら仁だってコロコロ出来そうだ。
その仁はと言うと。
「ぷはぁ~。一仕事終えた後のコーラは最高だね」
折り畳み椅子にどっかり座って、クーラーボックスで冷やしていた2リットルのペットボトルを美味しそうにラッパ飲みしている。
「仁君が飲んでるとあたしまで飲みたくなっちゃうよ」
「胡桃さんも飲む?」
「飲む!」
もしかして間接キッス!? なんて思っていたらクーラーボックスから500ミリのコーラを渡してくれた。
そりゃそうか。
「仁君が座っても平気なんて。丈夫な折り畳み椅子ですね……」
真面目な顔で凛が言う。
「160キロまで行けるって。その分重くなっちゃうけど。座り心地は中々だよ。リクライニングもついてるしね」
笑いながら、仁がぐいんと背もたれを倒した。
フレームがミシミシ鳴っているように思えるのは気のせいだろうか。
キャンプ場の夜は早い。
小休憩を挟むと、暗くなる前に川遊びをする事になった。
「そっちだと少し狭いから、着替える時はこっちのテントを使ったら?」
お言葉に甘えて仁チームのオバケテントで水着に着替える。
「別にお着替えは一緒じゃなくてもよくない?」
「だってなんだか恥ずかしくて……」
確かに、周りに大勢のキャンパーがいる中、ペラペラのテントの中で裸になって着替えるのは恥ずかしい。
すぐ外に仁がいると思えば猶更だ。
でも、女の子同士でも一緒に着替えるのは同じくらい恥ずかしいと思うのだが。
「わぁ! 胡桃ねぇね! おっぱいおっきい! お母さんみたい!」
そこに双葉も加わって謎に三人で着替えている。
仁のテントは物凄く大きいので、それでもかなり余裕はある。
「双葉ちゃんしぃー! 仁君に聞こえちゃうから!」
「本当、胡桃さんはおっぱいが大きくてズルいですよね~」
ここぞとばかりに凛がジト目を向けてくる。
「凛ちゃんまで!?」
「胡桃ねぇね、触ってもいい?」
「だめ!」
「ちょっとだけ~! ちょっとだけ~!」
「う~。ちょっとだけだよ?」
無邪気なお願いに胡桃が折れた。
「わぁ! ぽよぽよでにぃちゃんのお腹みたい!」
「え」
思わず胡桃は自分の胸を揉んでみた。
これが仁君のお腹の感触……。
いや、自分で触ってもよくわからないけれど。
ハッとして顔をあげると、ジト目の凛がにじり寄ってきた。
「り、凛ちゃんはだめだよ!?」
「ちょっとだけ、ワンタッチだけですから!」
「だめだってばぁ!?」
そんなこんなで着替え終わる。
外に出る時はちょっと勇気が必要だった。
「ど、どうかな仁君。今日の為に新調したんだけど……」
「一生懸命胡桃さんに選んで貰いました!」
水着のお披露目は胡桃的には本日のメインイベントだった。
凛とはお揃いのデザインにして、胡桃が白、凛が黒。
本当はビキニにしたかったのだが、あまりエッチ過ぎるのも良くないだろうと思ってスカートタイプにした。
上もふんわりフレアになっていて、露出度は控え目だ。
でも胡桃の胸は隠しきれない存在感を主張しているし、大人っぽくてスリムな凛がスカートタイプの黒い水着を着ているとミスマッチでセクシーだ。
ちなみに双葉は名前入りのスク水で、ある意味女子高生でも太刀打ち出来ない可愛さを放っている。
仁の第一声は次の通りだ。
「じゃあ、後で領収書渡してくれる? 経費にしておくから」
ガクッと胡桃が肩でコケた。
「もっとなにかないかなぁ!?」
「あははは……。仁君らしいですけどね……」
と、改めて仁がマジマジ見て来るので、急に胡桃は恥ずかしくなった。
「へ、変かなぁ?」
「ううん。二人ともすごく可愛いよ。でも、ちょっと可愛すぎるから、上にTシャツを着た方がいいかもね」
褒められているんだかいないんだか。
今回はそのへんで満足する事にしておいた。
仁も着替えると四人で下の川に降りていく。
川の浅瀬では小さな子供連れや大学生のウェイな集団なんかが盛り上がっている。
「カメラ危ないから、あたしは岸で見てるね」
業務用の高そうなカメラだ。濡らして壊したら大事である。
「防水だから。少しくらいは濡れても大丈夫だよ。胡桃さんの画も欲しいし、みんなで交代で撮ろうか」
そんなこんなで川遊びが始まった。
岸の近くは膝下程の深さだが、真ん中まで行けばお尻が濡れるくらいはありそうだ。
流れはゆっくりだが、怖いので奥には行かなかった。
「にぃちゃん! ざぶざぶして! ざぶざぶして!」
双葉のリクエストに応えて仁が足踏みをする。
140キロの仁が足を踏み鳴らすと、ざぶんざぶんと水柱が立った。
「はぁ~。冷たくて気持ちいいです……。きゃぁっ!?」
川辺に座って涼む凛の頭の上に濡れたシャツの裾を搾る。
「へへ~ん。隙あり!」
「もう! 子供みたいな悪戯して!」
「高校生は子供だも~ん!」
逃げる胡桃をばしゃばしゃと凛が追いかける。
入る前はこんな浅い川で遊んで楽しいのだろうかと不安だったが、普通にめちゃくちゃ楽しかった。
緑に囲まれて穏やかな流水に身を委ねるのは、海とは違った心地よさがある。
まぁ、このメンバーならなにをしたって楽しい気もするが。
「きゃ!? なんか今足に触った!?」
「えぇ!? きゃああ!? なに!? やだやだ、怖いです!?」
半泣きの凛に抱きつかれ、そのまま二人でひっくり返る。
「凛ちゃん!?」
「ご、ごめんなさい! でも、怖くって……」
「凛ねぇね怖がり過ぎ! ただのお魚だよ! ほら、向こうで釣りしてる人がいるでしょ?」
ケラケラと双葉が笑う。
「遊漁券っていうのを買えば釣りが出来るみたいだね。ニジマスが釣れるらしいよ」
カメラ役を交代していた仁が岸から言う。
「へ~。釣りたての魚で塩焼きなんかしたら美味しそうだね」
胡桃としては何気ない一言だったのだが、三人は急に押し黙った。
「え、みんな、どうしたの?」
「胡桃さん、なんて事言うんですか!? そんな事言われたら食べたくなっちゃうじゃないですか!」
「そうだよ胡桃ねぇね! お魚食べたくなっちゃったじゃん!」
「ご、ごめんてば!?」
二人に追いかけられて逃げまわる。
「あれ、仁君は?」
いつの間にか仁がいない。
と思ったら戻ってきた。
「どこ行ってたの?」
「どうしてもお魚食べたくなっちゃって。遊漁券買って来ちゃった」
「買って来ちゃったって、仁君釣り出来るの?」
「ううん。道具もないよ」
「じゃあ、どうやって魚を釣るんですか?」
「確認したら手で獲ってもいいって。出来る物ならって笑われちゃったけど」
肩をすくめると、仁は胡桃にカメラを預けてざぶざぶと川の深い所に入っていた。
「手で獲るって……」
「いくら仁君でもそれは流石に無理なのでは……」
「にぃちゃんなら出来るもん!」
双葉に言われて、二人も黙って見守ることにした。
仁は川の中で腰を屈め、水面をビンタをするように右手を構えて足元に目を凝らしている。
「おいあいつ、なんのつもりだよ」
「そこのお兄ちゃん、熊じゃないんだから無理だって!」
「あははは、ウケるんだけど」
釣り人やキャンパーに笑われても仁は気にしない。
巨大な石像になったように佇んでいる。
と、次の瞬間目にも止まらぬ速さで水面を引っ掻いた。
ザブン! とものすごい音がして、大量の水と一緒に大きなニジマスが岸に向かって飛んでいった。
「とりあえず一匹。最低でも一人二匹は食べたいよね」
なんて事ないように言うと、仁は再び石になった。
「胡桃さん……今の撮りました?」
「撮ってたけど……。これじゃあキャンプ動画じゃなくてビックリ人間動画になっちゃうよ……」
「流石にぃちゃん、かぁっくぃ~~!」
大はしゃぎの双葉が岸に打ち上げられた魚をクーラーボックスにしまいに行った。
学校一のおデブ君は無自覚イケメンなのでモテるのも当然です 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。学校一のおデブ君は無自覚イケメンなのでモテるのも当然ですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。