第31話 チェックイン&設営
買い出しの荷物を置くと、四人は郵送して貰ったキャンプ道具を受け取りに行った。
「わー……。めっちゃ多い……」
山のようなキャンプ道具に胡桃はちょっと眩暈がした。
「一式だしね。テントの他にも椅子とかバーベキューセットとか色々あるから」
「まずはクーラーボックスですね! 食材が痛む前にしまわないと!」
その為に沢山氷を買ったのだ。
「折角だから、道具の紹介も撮っておこうか」
そう言うと、仁は折り畳みのベビーカーみたいな道具を取り出した。
「これはなに?」
「キャンプ用のキャリーワゴンだよ。折り畳み式で、150キロまで耐えられるんだって」
金属製の骨組みと丈夫な布で出来たワゴンは、開くだけで長方形の立派なカートに早変わりだ。
胡桃ぐらいならすっぽり収まって運べそうだ。
「こんな布製のカートで150キロですか!?」
「それならにぃちゃんも乗れるね!」
「そうだね。試してみる?」
「その……。言いづらいのですが……。多分お尻が入らないんじゃないかと」
「凛ちゃん。冗談だよ」
「なぁっ!?」
女の子でも使えるという所を見せたいので、カートは凛と双葉にお願いした。
「凛ねぇね! 出発進行!」
「はい! しっかり捕まっててくださいね!」
荷物と一緒に双葉を乗せて凛がカートを押す。
「双葉。ほどほどにね」
「は~い!」
仁は肩に幾つもクーラーボックスを下げ、畳んだテントやターフを担ぐ。
重装備のロボットみたいになって、ドシンドシンとサイトに戻った。
胡桃はインタビューで盛り上げつつ、三人の周りをカメラ片手に飛び回った。
カートも凄いが仁はもっとすごい。
山のような荷物をすぐに運び終わってしまった。
「それじゃあテント張ろうか」
「「「お~!」」」
余裕をもってサイトは二つ借りている。
腰の高さの生け垣を挟んですぐお隣だ。
流石に同じテントに寝るわけにはいかないので、細田兄妹と恋する乙女チームで分けている。
カメラと三脚は二セット持ってきているので両方のサイトに設置して設営が始まった。
「うわあぁー。そっちのテント、大きいね……」
骨組みを入れる前のテントを細田兄妹がバサバサと広げている。
縦長のテントは巨大な芋虫の抜け殻みたいだ。
「僕が大きいから気を使ってくれたのかな。トンネルタイプの大きなテントを送ってくれたみたい」
「そんなのもあるんだ?」
「胡桃さん! 見惚れてる場合じゃありません! 急がないと仁君チームに負けてします!」
「そうだよにぃちゃん! ねぇねチームに負けちゃうよ!」
いつの間にか勝負になっていたらしい。
仁チームは芝の上にぺちゃんこのテントを広げ、三節棍のオバケみたいな長いポールをカチカチと組み立てている。
「初めてだけど上手く出来るかなぁ……」
「説明書の解読は任せてください!」
そちらは凛に任せて胡桃は取り合えずバッグから中身を出す事にした。
「あれ? これだけ?」
仁達のテントに比べて随分部品が少ない気がする。
布を張った大きなフラフープみたいなパーツが沢山重なっていて、なんだか変な感じだ。
「ポップアップテントと書いてありますね。ポップアップと言えばインターネットのお邪魔広告ですが……。キャンプと何の関係があるのでしょう……」
「きゃぁ!?」
適当に弄っていると、畳まれたテントがバネみたいに弾けてテントっぽい形になった。
「なるほど。骨組みが最初から入っていて折り畳み式になってるんですね。これなら簡単です」
「へ~便利だねぇ~……。じゃなくて! 仁君! 簡単なの渡したでしょ! これじゃあ勝負にならないよ!」
「簡単なのと本格的なの両方紹介したかったから」
「え~! ねぇねずる~い!」
「テントを組み立てるのもキャンプの醍醐味だよ。双葉は組み立てるのいや?」
「ううん! にぃちゃんと協力するの楽しいよ!」
「ならよかった」
「い~な~双葉ちゃん。仁君と共同作業出来て」
「胡桃さん! まだ完成じゃないですよ! 形を整えて
金属製のペグとペグ抜きのついたハンマーを両手に持って凛が言う。
「私がペグを打つので胡桃さんはテントを押さえていて下さい」
固定用の穴の空いたタグにペグを刺しこみ、凛がハンマーを構える。
震える手は見るからに不器用で危なっかしい。
「大丈夫? 代わろうか?」
「大丈夫です! タダ飯食らいではないという所を視聴者様にお見せしないと! ええい!」
ガツン!
思い切って振りかぶったハンマーは空振りし、ペグを押さえる凛の指のすぐ横を叩いた。
「……ふぇぇ……」
腰を抜かして凛がひっくり返る。
「大丈夫凛さん? 焦らないでいいから、安全にね」
「凛ねぇね怪我してない!?」
「だ、大丈夫です……くすん」
涙目の凛から胡桃がハンマーを奪い取る。
「これは没収! もう、危うく事故動画になる所だったよ!」
「面目ありません……」
そんな事件もありつつも、胡桃チームはテントの設営を終えた。
やる事と言ったらバッグからテントを取り出し、バフッ! っと広げて形を整え、ペグを二本刺して固定しただけだ。
初心者でかなり手間取ったが、それでも十分もかからなかった。
テントを張るのは大変だと思っていたが、これなら楽ちんだ。
「なんだか簡単すぎて拍子抜けだね」
「私はこれくらい簡単じゃないと無理そうですね」
二人で仁チームを眺める。
向こうは本格的なテントなので完成はまだ遠そうだ。
何本もある長いポールを組み終えて、芝に広げた縦長のテントに横からずぷずぷ突き刺していく。
「なんだか蒲焼みたいですね」
「凛ちゃん、もうお腹空いたの?」
「ち、違います! ただのたとえ話です!」
「テントを組み終わったら二人で中の紹介動画撮ってくれるかな?」
「「は~い」」
三脚からカメラを外して胡桃が構える。
「凛ちゃんリポーターよろ!」
「頑張ります! それでは失礼して」
脱いだ靴を揃えると、凛がテントに入っていく。
「うわぁぁぁぁ……! 胡桃さん! 凄いです! なんだか外から見るよりずっと広くて、秘密基地みたいで楽しいです!」
「他にはどんな感じ? テントの機能とか」
「そうですね。入口は二重になっていて、虫よけの網戸がついています。あ、凄いですよ! これ、玄関と奥で二部屋になっていて、そちらの入り口にも網戸がついています! わぁ! 横の所にも網戸の窓が付いてる! 立つのは無理ですけど、横は結構広いです! 胡桃さんと二人なら十分ですよ!」
興奮した凛が説明書を片手にあちこち弄りまわして、最後には奥の寝室で右に左にころころ転がった。
「ナイスリポート。これは良い画が撮れたんじゃない?」
見た目だけはクールで綺麗系の凛が子供みたいにはしゃぐ姿は女の子の胡桃でも思わず頬が緩んでしまう。
男性視聴者のハートならばっちりだろう。
「胡桃さんも来てください! 一緒に入りましょう!」
ニコニコしながら乙女座りで両手を伸ばされ、胡桃はなんだかドキッとした。
この天然小悪魔め!
なんて思いつつ、カメラ片手に突撃する。
「わぁ……。本当だ。秘密基地みたい……」
テントの中は別世界だった。
外から見るとそうでもないのに、中に入ったら急に広くなったような気がする。
ペラペラの布で区切られているだけなのに、妙に心がはしゃいでワクワクした。
「あたしもゴロゴロしたい!」
カメラを入口に置いて二人で一緒にゴロゴロした。
「あははは!」
「あははは!」
なにやってるんだろうと思いつつ、楽しいんだから仕方がない。
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