第30話 買い出し、移動、キャンプ場

 お昼ご飯をしっかり食べると、一行は駅前のスーパーで買い出しを行った。


 聞いた事のないローカルなスーパーには地元で育てたお肉や野菜が並んでいた。


「地元の食材を手軽に買えるのもこの場所を選んだ理由かな」


 なるほどと胡桃は思った。


 棚に並んだ野菜は大きなスーパーが扱っている物のように綺麗な形をしていなかった。


 曲がっていたり、大きかった、小さかったり、色がまだらだったり、ちょっと傷がついていたり。


「市場に出回ってる野菜は規格が決まってて、そうじゃない物は弾かれちゃうんだ。ここに並んでるのは規格外の野菜ばかりだよ」


 ハート型に膨らんだ真っ赤なトマトをかごに入れて仁は言う。


 大丈夫なのかなと胡桃は思った。


 ここの野菜はどれもこれも胡桃の知っている野菜とは違う形をしていた。


 キュウリはアルファベットのCみたいに曲がっているし、人参は先が二股や三股になっている。ナスは一部がカサブタみたいにザラザラしていて、トウモロコシは粒の大きさがバラバラだ。


「……なんだか病気にかかってるみたいですね」


 ぼそりと呟いて、凛はしまったという風に口を塞いだ。


「ご、ごめんなさい!? い、今のはカットして貰えると……」

「大丈夫! あたしも同じ事思ったから!」


 半泣きになる凛を見て胡桃が言った。


 余計な事だと思いつつ、黙っていたらズルい気がした。


「気持ちは分かるよ。見た目は大きなスーパーで売ってる野菜の方が綺麗で美味しそうだしね」

「味はどうなの?」

「これだけ違ったらまったく同じにはならないと思うよ。でも、僕は悪い事じゃないと思う。同じ規格の野菜は安定した味だけど、規格外の野菜には個性があるんだ。食べてみたらこっちの方が好きって人も沢山いると思う。普通と違うからって理由で捨てちゃうのは勿体ないよね」


 それを聞いて、胡桃はちょっと感動した。


「なんだか仁君みたいだね」

「そうかもしれないね。僕も学校では規格外だから。余計にそう思っちゃうのかな」

「……それなのに私、病気みたいだなんて言っちゃって。自分が恥ずかしいです……う、うぅぅ、野菜さん! ごめんなさい!」


 泣き出すと、凛が規格外の野菜を次々カゴに入れ始めた。


「凛ちゃん!? 入れ過ぎ!?」

「止めないで下さい! この子達は私なんです! 太ってイジメられてた私と同じなんです! 放っておけません!」

「気持ちは分かるけどそんなに野菜ばっかり食べられないから!?」

「残ったら僕が食べるから大丈夫だよ」

「もう! 仁君も甘やかしすぎ!?」


 大騒ぎする三人の所にとてとてと双葉が駈け寄り、右手に持った人参を高く掲げた。


「にぃちゃん! ねぇね! 見て見て! このニンジン、ちんちんついてる!」

 

 †


 大食いが三人も揃っているので、買い出しの量は凄まじかった。


 仁は怪力だが腕は二本しかない。


 小脇に大きなスイカを挟み、凛から借りたリュックを背負って、両手に大量の買い物袋をぶら下げてもまだ足りず、凛と双葉も荷物持ちに加勢した。


「ごめんね、みんなにも持たせちゃって」

「このくらい、はぁはぁ、と、当然です!」


 大量の氷が入った袋を重そうに持って凛が言う。


「あははは、凛ねぇね、双葉より力ないよ~!」

「双葉ちゃんすごいね。あたしより力持ちだよ。凛ちゃん、一個持とうか?」


 双葉は小学五年生の女の子とは思えない怪力で、凛の倍以上の袋を両肩に担ぐようにして背中にぶら下げている。


「へ、平気です! 胡桃さんは、はぁはぁ、カメラに集中して下さい! ぷあぁ~……」


 力尽きたのか、歯を食いしばって歩いていた凛が袋を道路に置いて小休憩する。


 仁はおもむろに空いた小指で重そうな袋を一つ奪い取った。


「ひ、仁君!? 大丈夫ですから!」

「無理しないで。大変なのはこれからなんだから。キャンプについたら二人にもテントを張って貰うからね」


 悪戯っぽく片目を瞑られ、凛は真っ赤になって黙り込んだ。


「ぁ、ぅ、ぁぅ……そ、それではお言葉に甘えて……」


 それを見て、嫉妬した胡桃がむぅ! っとむくれた。


「仁君! それ、あたし持つよ!」

「これくらい余裕だよ」

「片手空いてるし。あたしだけ荷物持ってなかったら女王様みたいじゃん!」

「そう? じゃあ、お願いしようかな」


 仁が小指で持てるのだ。


 胡桃だって片手でもどうにかなるだろう。


 そう思っていたのだが、あまりの重さに思わずつんのめる。


「おんも!? 凛ちゃん、こんなのよく幾つも持ってたね!?」

「が、がんばりました……」

「やっぱり持とうか?」

「平気! ふんぐぅ! 早く、行こう!」


 全然平気じゃなくて、程なくしてギブアップする胡桃だった。


 †


 今回やってきたキャンプ場は区画サイトと言って、映画館の席を予約するように予めキャンプ用に仕切られた区画を借りるタイプだ。


 このタイプは住宅街のように区画が隣接していて場所が狭かったり、人の手が入ってキャンプっぽさが薄かったりする。


 一方で現地でテントを張る場所に困る事がなく、場所も平たんだったり芝だったりと、居心地がよくテントを張りやすい立地である事が多い。


 場所によっては電源も用意されている。


 今回は初めてなので楽な方を選んだ。


 逆に好きな場所にテントを張れるタイプはフリーサイトと呼ばれている。


 受付の建物の前で説明シーンを撮ると、一行はチェックインした。


 荷物を置きに予約したサイトに向かう。


「うわぁああ! キャンプ場だあああ!」

「綺麗なテントが沢山でお祭りみたいですね」

「にぃちゃん! すぐ下が川になってるよ! 釣りしてる人いるけど、お魚獲れるのかな!」

「テントを張り終わったら降りてみようか」


 キャンプ場は幅広の川を見下ろすように長く伸びている。


 さほど深くないようで、水着姿のキャンパーが川遊びをしたり、上流では長靴を履いた釣り人が膝まで川に入って釣り糸を垂らしている。

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