第13話 それから
数日後、ルーラとグレンは2人でかつてきた丘にやってきていた。
2人、といっても、護衛や侍女も一緒だが。
そこで2人は幼い頃に約束をした場所に立っていた。
風が2人の間を抜けていく。ルーラの長い髪をさらっていくのをグレンはじっと見つめる。
「いい、天気ですね。グレン様」
「ああ」
2人の間には沈黙が流れているが、それは奇妙に心地よいものだった。
「今回は、君に苦労をかけた」
「いいえ。私はすべきことをしたまでです」
「本当に?」
グレンがすぐさま聞き返す。
「確かにルーラはすべきことをした。けれど、自分の幸福を得るためにも動いたと言っていただろう」
「……はい」
沈んだ声にグレンは首をふる。
「責めてるわけじゃない。逆だ」
「逆?」
「俺は、その言葉の意味を取り違えてないと思っていいのだよな」
さっとルーラは顔を赤くした。思わず顔をそむければ、グレンがその赤くなった顔を追いかけるように目の前に立った。
「今回のことでわかったことがある」
「……なんでしょう」
「俺は、きみが好きだ」
ルーラは目を見開いた。
「ちゃんと、言葉にしたことはなかった。伝わっていると思っていたし、実際伝わっていただろう」
「っ」
ルーラはコクコクと頷いた。
知っていた。愛してくれていることを。だからこそ苦しかった。
「俺は約束を忘れていないし、君も覚えているだろう?」
再びルーラは頷く。
言葉が出なかった。
「その約束が君を縛っているのではと思ったこともあったし、それはいけないと思うこともあった」
「それは……」
「だが、君が俺を得るために動いたと、その気持ちがあったというなら……。俺も俺の気持ちに素直になろうと思う」
グレンが穏やかに微笑んだ。
「君が好きだ」
「君を誰よりも愛している」
「君を俺のものにしたい」
いいか?
そう聞かれてルーラの目から涙が流れた。
ああ、伝えてくれた。
ならば、己もそれに返さねばならない。
ルーラは漏れそうになる嗚咽を耐えて、笑った。
「好き。好きです。だから……私のものになってください」
真っ赤になって言い切った。そのまま恥ずかしさに俯く。
そこへグレンの手が伸ばされる。
近づいてくる気配に、たまらなくなって目を閉じた。
柔らかい何かが、額に当たる。
言葉は、風に紛れるように静かに紡がれた。
「――――――」
大陸を分断する山脈に隣接する西の国には、とても美しい国王と王妃がいるという。
彼らはどんな困難も2人で乗り越えた。どんな苦しみも2人で背負った。
彼らは聡明で、優しく民に愛され、そして多くの革新的な政策で国を導いた。
国王の名はグレン。
王妃の名は、ルーラという。
愛する人が別の人と婚約しました 日向はび @havi_wa
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