漫才:小説家になろう!

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

漫才:小説家になろう!

 A:なりたいものがあってね。

 B:なんですか?

 A:小説家になろうと思って。

 B:簡単にはなれないだろう?

 A:そうでもないよ。今はだれでも電子出版が出来るんだよ。

 B:そんなに簡単じゃないだろう。お前の小説なんか誰が読むの?

 A:だから調べましたよ。

 B:何を?

 A:どういう小説にニーズがあるのか、とかね。

 B:へえ。どんな小説が読まれてるの?

 A:まず、ハイファンタジーね。

 B:ハイファンタジー?

 A:異世界転生とか、異世界転移っていう主人公が別の世界に行くストーリー。

 B:別の世界かあ。ロマンがありそうだね。

 A:魔法が使えたり、スキルという特別な能力を身につけたりするんだ。

 B:カッコいいじゃん。お前はどんな話を書いたの?

 A:俺が書いたのは異世界転生ものさ。

 B:どんな話?

 A:主人公は子供のいない夫婦の間に男の子として生まれるんだ。

 B:なるほど。それから?

 A:ステータスは普通の人間をはるかに超え、ユニークスキルとして動物と会話が出来る。

 B:そういう能力かあ。それで?

 A:ある日主人公は人々を苦しめる魔王とその手下を倒すために、家を出るんだ。

 B:おお。勇者の旅立ちだ!

 A:魔王が住んでいる島に向かう途中、主人公は犬、猿、雉を従魔としてテイムするんだ。

 B:え?

 A:鬼ヶ島にたどり着いた桃太郎は……。

 B:ちょっと待て! 途中から昔話の桃太郎じゃねえか!

 A:いや、最初から桃太郎だよ?

 B:だって、異世界転生物だって言っただろ?

 A:だから、桃に入って転生してるだろうが。

 B:桃太郎の舞台は異世界じゃないだろう?

 A:どこの地方で桃から赤ん坊が生まれるんだよ? そんなの異世界に決まってるだろ?

 B:そう言ったらそうだけど。昔話はダメだよ。違う作品はないの?

 A:人間以外のモンスターが主人公っていうジャンルも、流行ってるんだよ。

 B:へえー。そんなのもあるの。

 A:親をだまし討ちされたモンスターが、ほかのモンスターをたくさん仲間にして仇を討つっていう小説を書いたんだ。

 B:面白そうじゃない?

 A:モンスターのキャラクターを工夫してね。カニとかハチとかを登場させたんだよ。

 B:うん?

 A:栗とか臼とか牛の糞とか、普通は動かない物にも命を与えてね?

 B:――「猿カニ合戦」だな、それ?

 A:えっ? もうそういう話あるの?

 B:お前知らないのかよ? みんな知ってるよ?

 A:そうか……。じゃあ、実話をベースにしたローファンタジーならいいかな?

 B:今度は昔話じゃないのね。どんな話?

 A:主人公は芸人なんだけどね。小説家になろうとするんだよ。

 B:お前とおんなじだな。それで?

 A:そいつは「小説家になろうとする芸人の話」を書こうとしてるんだ。

 B:お前とおんなじだな。それで?

 A:その小説に出てくる主人公は「小説家になろうとする芸人の話」を書こうとしてるんだ。

 B:キリがねえな! 何だその話? いつ書き終わるんだよ?

 A:俺に聞かれてもわからないよ。

 B:どうして? 自分の作品だろ?

 A:いや。俺の話を書いている作家に聞いてくれ。

 B:気持ち悪いな! もういい。やめさせてもらうわ。


(おわり)

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