魔法少女という題材は、その内容以前の問題として〝魔法少女〟というキーワードそのものがものすごくシンボリックで特徴的な印象を持っている。
一般的に通俗的なイメージの魔法少女。ひらひらのドレスのような衣装をまとい、昭和の頃の魔法少女は日常の隣近所の問題を解決し、平成に入れば大人になり服装を自由自在に変化したり、ファンタジックな敵を倒す、いわゆるメルヘンチックなイメージのストーリーにメインモチーフを落とし込む作品がほとんどだ。
しかし魔法少女というジャンルにはもう一つの系譜がある。それは――
【魔法そのものにリスクがある】
――と言う、極めてリスキーかつリアルな表現方法の魔法少女だ。
魔法を手に入れたらばもう戻れない、何かを失う、すれば命をなくす。
魔法を使えば何でもありのメルヘンスタイルの魔法少女とは全く反対の、リアル路線の少女と言えるだろう。
作者のこの作品はそのリスキー型の魔法少女の極北と言える。
この作品では魔法を手に入れたその力の源泉が〝病〟であるという点が注目に値する。感染した段階で20歳までに命を落としてあろうということは避けられず。次々に生まれる化け物たちを倒さなければならない。そしてそこには救いも、安息もない。物語の内部構造を死ねば知るほど絶望に満ちた世界観であることがわかる。
だが救いの鍵はある。それが物語の主人公であるヒロインだ。
彼女の行動により状況が少しずつ変化を起こしていく。読者はその変化を追いながら読み進めていくことになる。何が救いになるのか? それは読者であるあなたが突き止めてもらいたい。
意表をつく設定とキャラクター造形の妙が生き生きとしている良作品だ。
すべては、1966年に遡る。
『三国志』でその名を知られる横山光輝氏が『りぼん』誌に連載を開始したその作品こそ、すべての源だ。
次に『天才バカボン』を世に産み出した、赤塚不二夫氏の作品。
それら東映時代を経て、80年代にはスタジオぴえろの時代(天使・妖精・マジシャン・アイドル)が到来する。
やがて90年代に入り、その定義を一新させた戦いの時代がやってくる。
太陽系の戦士。車の名前をモチーフにした異世界戦士。魔法のカードを集める少女に、自称「世界一不幸な美少女」。
一大転機となったのは、2011年。
悪名高き『僕と契約して……』の台詞が大流行したあの作品により、状況は一変する。
それまではニッチであったダークで破滅的な要素が、このジャンルで市民権を得たのだ。
さて、昔語りはこのくらいにしておこう。
端的に言う。本作は、これまで長々と綴ってきたそれら、魔法少女の『系譜』を継ぐものである。
正しく系譜を継ぐものとして、本作は、押さえておくべき要素は全て備えている。
主人公をはじめとした美少女たち。圧倒的で不思議な力。迫りくる危機。ライバル。ほんわかした日常。それに多くの秘密。
良質なエンタメとして成立するのに十分な素材があり、そしてそれを調理する筆致は、軽やかで強烈だ。
舞台は、『箱庭』と呼ばれる閉鎖都市。
いつ何時、発症するかわからない深刻な病が蔓延する恐るべき都市だ。
まるで、数年前まで世界中で猛威を振るったあのウイルスで、ロックダウンした都市のようである。
そしてその都市を支配する公社。
公社と聞いて、最初に思い出したのは、人体改造を施した少女をテロリストとの戦いに放り込むあの作品だ。
それにそのあり様は、戦前の関東軍にあった防疫給水部を彷彿とさせる。
本作には、そこはかとなくそれらの香りを感じる。まあ、そんな邪推は置いておく。
この舞台の中で、過酷な運命を背負うことになった少女たちがいる。
彼女たちは、それぞれに、影を背負っている。そしてその力は、その陰を原動力にした魔法。
彼女たちは、激しく、残酷で、絶望的な戦いに巻き込まれていく。
さらに彼女たちは、大人になることができないという、時限爆弾を抱えている。
その一方、日常の彼女たちは、どこにでもいるだろう普通の少女でしかない。
ダブル主人公の白上梓と黒染真澄。
公社に所属する真壁梨々香、一条楓、葛木のどか。
普通に生活して、普通におしゃべりして、普通に日々を送りたい……だけど、それらは幻想でしかない。
ほんのわずかな間に、日常は戦場に変わる。
そんな絶望的な世界と残虐的な運命に翻弄されながら、少女たちはそれぞれの微かな希望をもって抗う。
その瞬間は、とても美しい。
マジカル•シンドローム。
シンドロームとは『複数の症状や徴候が同時に起こる状態』を指す。
この世界では、様々な運命と思惑が『同時進行』している。
だから読者は、目に見える症状だけを追いかけてはいけない。
見えないところで、何が起きているのかを追うのだ。
あ、百合百合しているところは、情緒がきゅーっとなる感じで、超カワイイです☆
マギアウイルス。
感染経路不明・若年女性特有・戦闘能力が開花——
この定義は完全に“架空の感染症設定”として斬新で整っています。
社会構造から感染対策のための組織があり、医療機関の延長に6課がある、などなど…。
構築がめちゃ上手いし、新しいです。
さらに“魔法少女がウィアドを倒す”という事実すら、「社会が感染者を利用して感染対策処理させている」構図に変換されてる。
そして成人に至ると命を落とす病。
つまり、ヒーローは社会に使い捨てられる病人であること。
「ウィアド」と「魔法少女」の関係は、
まるで免疫反応と病原体のように鏡構造をしてる。
感染し、ウィアド化したならば、昨日話した隣人でさえ、向き合わなくちゃいけなくなる。
単なる怪物化じゃなくて、
“個人関係が侵される”というホラーになってる。
さらには「魔法少女もウィアドも、どっちもどっち」という現場知られざる社会的な鈍化もある。そんな魔法少女たちは、ただ静かに魔法少女同士で手を取り、立ち向かうしかない。
なんとも切なく、行方にハラハラするドラマティックな魔法少女設定です。
面白いです。