第10話 ヘタレな俺も、走り出す ~7月23日②~
何故ここで、俺の名前が出てくるのか。
さも俺に向かって話しかけてくるように言葉を放つのか。
答えは一つ、これを聞いている人間に言っているのである。
つまりは俺に言っているのだ。
一体何故バレたんだろう。
一体いつから、一体どうやって。
驚きと混乱が頭の中でぐちゃぐちゃにかき混ぜられる中、一つだけ、俺にとって決定的で確定的な事がある。
怒られる。
いや、嫌われる。
軽蔑される、まであるかもしれない。
どうする。
どうすればいい。
どうしたらいい?
懸命に思考の出口を探すけれど、思い浮かぶ筈もない。
と、その時だった。
ラジカセの中から「はぁーっ」という盛大過ぎるため息が吐かれた。
<アンタの事だから今そこで、どうせ右往左往してるんでしょ? もうホント、なんで私ったらこんなのの為に、優良物件切っちゃったんだろ。あー勿体ない! ホントに勿体ない!!>
え、それって一体どういう――。
<ねぇ分かってる? アンタのせいなんだからね?>
俺の、せい?
俺のせいで優良物件を切って……って、ちょっと待て。
それってまさか、もしかして、いや、いやいやそれでも。
顔が、熱い。
焦りなんて吹っ飛んで、期待と不安で胸がいっぱいになる。
<日記聞いた事、悪いと思ってんなら、逃げてないで今すぐとっとと謝りに来なさい! で、責任取りなさい! っていうか、そろそろ男を見せてほしいところなんだけど? ホントにマジで分かってんの?>
これはつまり、アレだろうか。
アレがアレしてアレなのだろうか。
ななななんだコレ。
どどどどうすれば。
<場所は秘密基地! とっとと来なさい!!>
カチッ
音声日記の終わった音が、まるでスターターピストルの音であるかのように聞こえた。
弾かれた様に走り出す。
ドアを勢い良く開き、廊下に躍り出て、階段を駆け下り、驚くおばさんの声にわき目も振らずに玄関を飛び出す。
いつも、いつだってそうだった。
俺はいつも臆病で、茜がいつも背中を押してくれていた。
今回もそうでちょっと情けないけれど、そんなのはもうこの際問題じゃない。
そもそも走り出したんだから、もういい加減に認めなければ。
もう腹をくくらねばならないだろう。
――俺は茜が好きなのだ。
この想いを届けに行こう。
俺とアイツしか知らない秘密基地に、今度は堂々と、二人だけの秘密を作りるために。
~~Fin.
―――――――――――――――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は男主人公物の、慣れないラブコメ(?)ものをお送りしましたが、それもその筈。
本作は『第1回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト』の応募作として、書き下ろした作品です。
ネタバレ、作品裏話などについては近況ノートに載せています。
↓ ↓ ↓
https://kakuyomu.jp/users/yasaibatake/news/16817139558333189992
最後になりましたが、もし
「中々楽しめたよ」
「新作お疲れ様ですー!」
「まぁ夏休み中の暇潰しにはなりましたかね」
「ヒロインor主人公可愛い(作者は主人公も可愛いと思って書いています。笑)!」
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☆☆☆ ⇒ ★★★
幼馴染の『ラジカセ音声日記』再生ボタンに、ついつい手が伸びてしまう。 ~誘惑に勝てないヘタレな俺の、無自覚ヘタレな恋の結末~ 野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中 @yasaibatake
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