最終話:世は三日見ぬ間の桜のように
「ひいばあちゃん。それでそれで? それから何があったの?」
暖かな陽の光が差し込む庭園で、小さな人間の少女がとても綺麗な曾祖母にお話の続きをせがんでいた。
少女は曾祖母の家に遊びに来るたびに、年齢不詳と近所でも有名な曾祖母の昔話を聞くために親と共に街から山の上へと里帰りをしているほどだった。
色艶を失わない白髪にも見える銀糸の髪。天日干ししたあとの布団のような暖かさと匂い。後頭部に触れている柔らかな膝の感触。
どれもこれも少女のお気に入り。意地悪な男の子たちの嫌がらせも吹き飛ぶほどの一品で、さらに贅沢なことに曾祖母の頭を撫でる手は荒んだ心を溶かすほどに優しい。
「南の森に逃げていた私達は森の景色が変わっていくのを観て洞窟に逃げ込んだ。一際大きな揺れと変わり果てた森。そして……雨雲を切り裂く大量の岩が飛んできた」
幾つもの熱を持った噴石が雨雲を貫き、そして雲を綿飴のように舐め取る溶岩が噴出してきた。
その噴石や溶岩が変わってしまった森を壊して焼き払っていくのを見たことで、里の長老が戦いの終わりと洞窟の中と外を遮断する結界をマナに張らせた。
「それから沢山の時間が経って、地震の揺れが無くなってから私達は外に出た。降り積もった灰色の地面。燃えて無くなり、命が消えた森から私達は出ていった」
「里はやっぱり無くなっちゃったの?」
「綺麗さっぱりね。でも被害は少ないほうだと長老も言ってたよ。きっとサクヤ様が護って下さったのだろうってね」
事実としてそれから不尽山は約八十年という歳月を経たあとに噴火し、その被害は非常に大きかったという。
幾層もの火山灰の野原を歩き通して、曾祖母たちは雲より高い山に人目を避けるように移り住んできて今日に至る。
少女が生まれたから不尽山は噴火の兆しはなく、しかし未だ死することなく生きている活火山である以上はまた噴火することだろう。
恐らく、最後の生き残りである曾祖母が亡くなる頃に。
不尽人の守護姫 セントホワイト @Stwhite
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