第3話 チーム結成
蝙蝠からの情報によって「悪人吸血鬼」の場所を見つけた私たちは、急いでその場所に急行した。私たちが到着した頃には既にショウと呼ばれたアイのバディである女吸血鬼が来ており、既に私の目では捉えることができないほど、光速の戦いがそこで行われていた。
「このままだと、私が吸血鬼を殺せなくなさそうじゃないですか?」
「それは……そうね。私ならこの戦いに混じることができる自信があるけど、君がこの中に混じったら、ミキサーの中に入ったように粉々になってしまうと思うわ」
「ですよね……あっ! だったら、二人が疲弊して動けなくなった所を狙って殺すとかどうですか?」
「それは吸血鬼を舐めすぎ。仮にあの二人が疲弊して地面に膝をつくとしたら、早くて五十年後よ。それまでここで待っているのなら、まぁ止めはしないけど」
ひゅんひゅんと風を切る音が聞こえてくる度、私とアイの髪はたなびいていた。このまま本当に五十年待つのもあながち悪いことだと思わない。どうせ、人生に対して「吸血鬼を殺したい」以上の目標を持たない私である。ここにキャンプを張って、野生の中で生きる……というのも一興かもしれない。本気でそのようなことを夢想していたが、不意に足元に落ちていた枝を踏むと、戦っていた二人が私たちの存在に気付いてしまった。すると、二人の戦いが止んでしまった。
そこにいたのは、手配書と同じ顔をした女吸血鬼だった。しかし、改めて見てみると、やはりどこかで見たような顔をしていた。私は隣のアイにそのことを相談しようと見た時、思わず「あっ」と声を漏らした。
「同じ、だ……」
「君、悪人吸血鬼と私が同じとは失礼じゃないかしら?」
「ですが、あの人とアイさんの顔が――――」
その瞬間、私の首筋から血が噴き出した。一体何がと思っていると、シュウと呼ばれた女吸血鬼が私を見下げるようにして睨んできていた。死ぬほどに痛いけど、これはこれで気持ちいいな……と思っていると、悪人吸血鬼が無防備な「笑み」を浮かべて、私に近付いてきた。分からない。どうして、悪人吸血鬼が私に近付いてくるのか分からない。無残にも私へ辿り着く前に首を切り落とされた姿に、私は思わず顔を歪める。
コロコロと私の前に転がってきたその首は、それなのに「笑み」を浮かべていた。その異常さに私は困惑しながらも、どうにか止血しようとしてくれているアイの体温を肌に感じていた。私は「吸血鬼を殺す」という目標も果たせないまま、ただ意識を失っていった。
それから、どのぐらいの月日が経っただろうか。気が付くと、私はその山小屋のベッドの上にいた。周囲を見渡すと、アイとシュウがキッチンで仲良く料理をしているのが見えて、あぁ、これは幽霊として私は世界を見ているのかなと思った。しかし、私がベッドから立ち上がると、二人は私の方に近付いてきた。
「意識が戻ったようね、お姉様!」
「みたいだねぇ、お
これはどんな精巧な夢なのか、と自分で自分の頬をつねった。しかし、夢は覚めないし痛みはある。段々と今見ているのが「現実」であることに気付くと、思わず、私は自分の首筋を抑えた。あれだけ酷い傷があったというのに、今ではすっかり完治していた。ツルツルとした肌触りに疑問を抱いていると、そんなことを考えている暇を与えないとでも言うように、アイが私に抱きついてきた。
それをシュウが「お義姉サマのお邪魔だろ? やめてあげな」と明らかな敵対意識を込めた声でアイを引き剝がす。そのまま「お義姉サマのために作ってやりな」と言いくるめ、キッチンへと彼女を戻した。シュウは私の顔を見てチッと舌打ちをすると、私の頭に手を置いてきた。
「一度しか言わないからよく聞くんだよ? アンタはね……アタイは認めたくないけど、吸血鬼だったんだよ。それも、吸血鬼と人間のハーフなんて希少種。しかも、この子と姉妹だという。まっ、アタイもあの悪人吸血鬼……アンタたちを生んだ母親の履歴書を見るまではそんなことに気付かったし、履歴書を見てもなお信じられなくて、わざわざアンタに会いに行ったんだけどね」
「あー……話長いので要約したら、”自殺すれば吸血鬼を殺せる”ってことですか!?」
「絶対に言うと思ったよ。……でもね、お前は純正の吸血鬼ではないんだ。そんな不完全な自分を殺したところで、果たして”吸血鬼を殺したい”というアンタの夢は叶ったと言えるのかねぇ」
「……何が、言いたいんですか?」
「”取引”だよ。アンタは自殺をしないで、あの子の姉として振舞ってやる。その代わり、私はアンタのために悪人吸血鬼を探してやる。アンタは回復力以外の吸血鬼としての要素を一切持っていないレアな吸血鬼だが、それはそれで使える場面がある。それこそ、敵をおびき寄せる囮として使いたいんだよ」
「つまり……”私を殺したいけどアイが哀しむので殺せない。とはいえこのまま放置しておくと問題なので、チームの一員にしてしまおう”って魂胆ですか」
ショウは何も言わずに「フンッ」とそっぽを向いた。私はその姿に前途多難な人生を予期して迷ったが、キッチンから「モンブラン、できたわよー!」というアイの声を聞いてしまうと、もう私には選択肢が一つしかなかった。私はベッドから起き上がると、「はーい!」と元気良く彼女たちに返事をした。
目の前の未来に待っているモンブランの想像をしてお腹を鳴らしながら、未知に満ちた人生をまだもうちょっとだけ生きていたいなと思えていた。
吸血鬼殺し 海沈生物 @sweetmaron1
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