第122話 出雲大社

 美少年と副長との決闘は副長は


『そんな長い刀等抜けない。』


と思いこんでいた長い斬馬刀を意表を突いた方法で抜き出した美少年に軍配が上がった。

 美少年は倒れ伏した副長を見つめながら長い斬馬刀を大きく血振をすると懐から鹿皮を取り出して丁寧に刀身を拭い血糊と脂がついていないかを確認してから鞘に納めて俺の前に差し出した。

 斬馬刀を差し出した美少年は副長との因縁を俺に語り始めたのだ。

 美少年曰く


「私はイスパニアの地方暮らしのオリベラスという名の貧乏男爵家に生まれリベーラと名づけられた。

 決闘をしたこの副官はその地方を牛耳る大侯爵家の次男です。

 オリベラス男爵家は大侯爵家の家臣の一員であった。

 私の母親はこの地方でも美人と評判で副官も母に懸想していたのです。


 ある日私の父は強盗の討伐の際に副官に殺されあまつさえ母もこいつに手籠めにされたのです。

 私と一つ上の姉はこのままでは姉も手籠めにされて私も殺されると思い逃げ出して叔父の住む地中海に面した軍港の一つカルタヘナと逃げ込み姉は女給の仕事を得、私は士官候補生としてガレオン船に乗り込んだのです。


 出港の間際になり怨敵である副官が


『この船の副官で医師も兼務する。』


と言って乗り込んで来た時には驚きました。

 彼は夕方士官室で酒を飲みながら


『美人な人妻がいたので俺のものにしようと旦那を殺して手に入れたのは良いが、噂が広がり親父にばれて2、3年船の上で謹慎していろとこのありさまだ。

 医療そんなもの知ったことか。』


と周りの者に言いふらし、狭い船の中ついに私を見つけて


『お前、美人な人妻そっくりだな船に乗っている間可愛がってやるよ。』


と・・・毒牙にかかってしまったのです。


同性愛はこの当時キリスト教圏では御法度で、イエズス会のフランシスコ・ザビエルが男色を罪とするキリスト教の教えに対して大内義隆の怒りをかって追放されてもいるのです。・・・閑話休題

ついでと言っては何ですが織田信長は加賀百万石の大身となる前田利家とは添い寝する仲とも言われているのです。・・・閑話休題。


 私はこれで父の仇を討ち母の汚名をそそぐことができました。

 それでこのまま御屋形様の家臣として取り立てて下さい。

 ただカルタヘナに残した姉もこの日本ひのもとの国に連れてきたいのでどうか暫くの間暇をくだされ。」


と副官との遺恨を語り地に頭を擦りつけるようにして懇願するのだった。

 美少年リベラ・オリベラスは俺の与えた斬馬刀を腰に差して姉を求めてノボリクス号へと乗り込んでいった。 


 舅のランジード・ノボリクスが織田家の私掠船団として活躍する前に美少年リベラ・オリベラスと副長とが決闘する一幕があった。

 その後は慌ただしくではあるがノボリクス号と名を改めたイスパニアのガレオン船は舅のランジード・ノボリクスの旗艦となった。

 舅のランジード・ノボリクスは織田家の私掠船団の長として、この当時倭寇の拠点であった台湾そして彼がインドのマハラジャとして治めていた沿岸部周辺を活躍の場に決めていた。

 この私掠船団には帰国を希望したイスパニアの兵が乗船していたが、彼等には


「リベラ・オリベラスが希望する姉や出来れば母親を伴なって戻ってくるまでは解放しない。」


と伝えていた。

 それを聞いてイスパニアのガレオン船で同僚だった残留を希望していた士官と士官候補生2名がリベラ・オリベラスの協力を願い出ていた。


 そんな一幕もあったが無事ノボリクス号と彼の指揮下に入った3隻のジャンク船が浮きドックを離れて無事出港していった。


 ノボリクス号の代わりにヘンリー8世号が浮きドックに入れられて後部の艤装がイングランドの物から日本国の物へと改修されていく。

 石見銀山には当初の計画のとおり織田家と毛利家が共同出資した周防屋石見銀山店が設立されて、降伏した尼子の兵は石見銀山の鉱山奴隷となった。

 今までの鉱山労働者は尼子の兵に虐待されており、これより立場が逆転した。

 ただ鉱山労働者の粉塵対策としてマスクを支給し、周防屋石見銀山店の付属病院を開院した。・・・鉱山病対策は特に粉塵対策の為の防塵マスクの開発だけでなく飲み水にも影響が出る。飲料水と生活用水とに分けて使わせるなどの細かい対策も必要なのだ。


 俺が目標とする


『織田家による日本の海運業の独占』


そのためには地方各地の戦国大名を服従させて航海権を奪う事だ。

 大阪湾から始まり、瀬戸内海そして開聞海峡の通行が保証され、尼子家を打ち破ったことから毛利家の影響力のある日本海側も安全航海が約束された。

 そして海運業の独占の為には航海権だけではなく各地に織田家の物流や販売の拠点を置かなければならない。

 その一つが金銀を取引する周防屋で、今後の毛利家との銀の取引や折衝するために石見銀山だけでなく毛利家の居城広島に出来た周防屋本店で、そこに社長に就任した俺の実弟で毛利家と出雲大社で婚姻する織田信包である。

 今後は毛利家と縁続きになる信包が周防屋本店に住み込んで対応に当たることになった。


 織田家と毛利家の婚礼の為に織田家艦隊の帆が上げられた。

 目的地は国譲りで有名な出雲大社である。

 ここで松様から


「出雲大社は国の成り立ちにもかかわる重要な神社、さらには皇室ともゆかりが深くあだおろそかにしてはいけません。

 まして今の宮司も皇室に繋がる者、敵対もしていないのに弓矢を向けてはなりません。」


と言われたのだ。


 巨大な浮きドックを旗艦にして織田艦隊は日本海を北上する。

 日本海を北上すると大きく突き出すように島根半島が見えてくる。

 その西側に出雲大社が存在する。

 出雲大社は巨大な地方勢力ではあるが他の神社仏閣とは松様からの申し出があったとおり一線を画している。

 攻略戦を行い灰燼に帰すことは避けたい。


 俺と親父殿は折衝の為に松様を伴ない、さらには出雲大社に納める多額の銀を持って訪れた。

 そこには出雲大社の皇室と縁続きの宮司と出雲大社一帯に勢力を張ろうとする尼子家の配下だった新宮党の一部が紛れ込んでいた。


 松様を伴なったのは正解だった。

 出雲大社の皇室と縁続きの宮司はにこやかに対応してくれた。

 これでは新宮党の面々が手出しする事は出来なかった。


 その宮司達を連れて海の見える場所に立つ。

 海にはガレオン型戦艦が白い帆を張って3隻が航行している。・・・ヘンリー8世号は艤装作業の為に参加していない。

 出雲大社から距離約3キロの地点を航行するその側舷に備え付けられた砲が次々と火を噴く。

 轟音が響き渡り浜辺に幾つもの土煙が巻き上がる。


 それを見て宮司殿は腰を抜かして


「後生です。織田家と毛利家の傘下に入るのでこのような恐ろしいものを大社に向けないでください。」


と懇願された。

 また同様に驚いた新宮党の面々も


「織田家と敵対する事は避けるべきだ。」


と尼子家の居城である月山富田城に封書を送った。


 これにより永禄2年(1559年)6月・・ジューンブライド・・に織田家と毛利家の婚姻の儀が厳かに出雲大社で行われたのだった。

 6月は田圃仕事が終わり、豊年万作を祝う月でもあり子宝に恵まれるように祝う月でもある事から欧州ではジューンブライド・・・6月に結婚すると花嫁が幸せになる・・・と言われる月でもあり出雲大社で6月に結婚する事が流行ブームになった。

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戦国乱世の英雄譚 いのさん @kiis907595

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