第121話 決闘

 舅のランジード・ノボリクスに後部の意匠を変更し、大砲の取り替え等改装なったイスパニアのガレオン船を引き渡した。

 彼は今後海外での倭寇の重要拠点の一つである台湾と出身国のインドを中心に織田家(日本国)の私掠船団として活躍してもらうことにしている。

 その際に先の戦いで捕虜にしたイスパニア兵のうち帰国を希望している兵を連れて行ってもらう事にした。

 そう思って希望を聞いている所で、残留を希望した銀髪の美少年で士官候補生が帰国を希望した士官・・・副官に決闘を申し込んだのだ。

 どうやら副官は銀髪の美少年に懸想して地位を盾にとり・・むごいことだ。

 それ以外にも遺恨があるようだが・・・今は答えてくれないようだ。

 俺は二人の決闘を認めた。・・・『婚礼の前に決闘とは!』・・・とは思ったのだがここで禍根を残して分かれるのではと思い許したのだ。

 

 俺が立会人として二人の決闘がノボリクス号が出港するその日、1週間後行われるこになった。

 決闘の武器については副官は銃を美少年の士官候補生は剣を希望した。

 大柄な副官が剣を希望すると思ったのだが・・・?

 俺は銃をぶっ放されて流れ弾が俺や見物人に当たると危ないので美少年の士官候補生の希望した剣を採用した。

 大柄な副官はしてやったりとニヤリと笑って


「自分のいつも使っている武器・剣で良いか?」


と尋ねるので俺は美少年に


「どうするのか?」


と尋ねると彼は


「了。」


と鈴を転がすような美声で短く答えた。

 美少年はこの時俺が手に持つ長刀・斬馬刀を賜りたい希望した。・・・う~んこの刃渡り2メートルを超える長刀を美少年が振り回すことができるのか・・・?その前に抜くことすらできないだろうに?

 とりあえず俺は美少年が希望する斬馬刀を手渡した。

 彼もまた凄みのある笑顔を見せた。・・・う~ん美少年が笑うとまるで夜叉(古代インドに登場する鬼神)だな。


 1週間の間二人は別々の浮きドックに暮らす事になった。

 何せこの浮きドック1個1個がとてつもなく大きくて広い、二人は顔を合わすこともなく決闘の期日である1週間を暮らす事になったのだ。

 俺の前にくだんの美少年が座ると手をついて


「私に剣を教えてください。」


と頼まれた。・・・どうやら織田家で誰が一番強いと聞いてまわり俺に師事してきたようなのだ。


『朝に鍛、夕べに練して鍛錬という。』


 初日の鍛錬の開始だ、朝は俺と一緒に浮きドックを走る。・・・う~ん初日とはいえ半周もしないうちに息切れを起こすとは・・・!どうなる事やら?

 軽いベンチプレスでヒーヒーいっている。

 その後それでも歯を喰いしばりながら素振りをする。・・・う~ん素振り用の重い木刀だが、これも百回も出来ないか!・・・ほんとどうなる事やら!?

 夕方打ち込みをさせる。・・・俺にかすりもしない。・・・ドタドタと重い木剣を振り回して向かって来るだけだ。・・・ほんとにほんとどうなる事やら!!?

 ただ俺と他の者との打ち込みをジーッと見つめている。

 さらに夕刻遅くに居合の稽古・・・抜き打ちの稽古をする。

 最初は長い斬馬刀を抜き出したまま素振りをさせたが、意表をついてこの斬馬刀で抜き打ちができないか?・・・できれば面白いのだが。

 長い斬馬刀ではとてもでは無いが普通には抜き打ちができない。


 斬馬刀は二人が柄を持って一人が鞘を持って刃を抜き出して、戦場で駆けまわる馬の足を切る事を目的に鍛造された刀だ。・・・う~ん構造的にも無理がある。

 実際の居合刀の長さは腕の長さ・リーチが172センチ程なら刃渡り2尺4寸4分、約91センチがやっと抜ける長さだ。・・・刃渡り2メートルなど実際抜くことは無理何か工夫しないと!


 3日目・・・『男子、三日会わざれば刮目して見よ』である。

 朝、広い浮きドックを1周する息切れすることなく走る事ができ、その後のスクワットも軽々と行い、素振りも体幹が鍛えられたのか見事に1本1本がピシリときまる。

 夕方の打ち込みも他の者を見て気付いたのか!?・・・ドタバタした動きが無くなり足音がしないすり足で行い、ここぞと思う時に


『ダーン』


と勢いよく踏み込む。・・・う~ん!アブねい!アブねい!少し気を抜いたか1本取られるところだった。

 居合の抜き打ちも普通の太刀なら危なげなく抜き打ちができるが斬馬刀ではやっぱり無理だ!・・・間に合うか?

 夜ストレッチの風呂上がりの後に、美少年の身体に秘薬の香油を塗り込む。・・・塗り込むのは女忍・房中術の得意な百地の空が率いる歩き巫女達だが、堅物なのか彼女達に対しては手も出していないようだ。


 7日目・・・決闘の当日である。場所は美少年と共に稽古をした浮きドックの上である。

 美少年・・・嫌々逞しい美青年になって副官の前に現われた。


 副官はと言えば・・・7日間好きにさせてやった。・・・稽古をつけてくれと言えば美少年と共に鍛えてやったのに・・・七日前に比べてビア樽の様な腹がもう一回りも大きくなっている。・・・海軍士官としても無様である。

 素股の幸という女忍・歩き巫女を美少年と同様に彼の身の回りの世話をさせているので状況は丸わかりである。


 決闘の場・・・美少年を鍛えた浮きドックの上で行われる。

 一方には竹矢来が組まれているが、残り三方は白い幔幕が張り巡らされた広さ11間・・・約20メートル四方の決闘場である。

 俺は立会人として白い幔幕を背にしてドッカと床几に腰を下ろす。

 美少年の腰には斬馬刀が差され、額に鉢金の付いた白い鉢巻が巻かれている。

 方や副長は赤黒く鈍く光る牛刀を片手に下げて現れた。


 副長現れるやいなや俺の「はじめ」の合図を待たずに牛刀を振りかぶると巨体を使って圧し切ろうと


『ドシン』『ドシン』


と足音も高く悪鬼の様な形相で銀髪の美少年に向かって行く。・・・危うし美少年!副長も腰に差したこれほどの長刀である斬馬刀を手助け無しでは抜けないとふんでの奇襲攻撃だ。

 ビヤダルが走る姿とそれを恐れげもなくそれに向かう美少年・・・その絵図らを見るだけでも美少年を応援したくなる。

 竹矢来の向こうで見守る人々も同様の思いだろう。・・・その為か女性の悲鳴・・副官に付けていた素股の幸まで・・・が多い。


 そんな中で美少年はわずかに腰を落として静かに斬馬刀の柄に右手を掛け、左手の親指が鍔を押して鯉口をきった。 

 副長の


『ドシン』『ドシン』


という足音が聞こえる中、美少年の周りだけは静かな時が流れる。

 美少年と副長とが指呼の間に迫る。


『ピーユ』


という音と共に一条の光の線が副長のぶ厚い腹に走る。

 抜き打ちの工夫がなって美少年の右手には長さ2メートルもの斬馬刀が抜き出されている。

 副長は


『ドシン』『ドシン』


と美少年の脇を走り抜けて・・・5、6歩進んでいく。

 グラリと上体が傾き


『ズシャリ』


と地に落ちる、それでも足は走るのを止めないでさらに2、3歩進むと勢いを止め崩れ落ちた。


 しかし長い2メートルものある斬馬刀をどうやって抜いたのか?

 助っ人や介添え人を付けて鞘だけ抜くか?

 鞘を後ろに放る、または刀身を放り投げて抜く?

 鞘に仕掛けをする?

 腰に差している刀の鞘だけ抜けば帯や袴の紐も切れて無様な事になる!


 それではどうしたか、先ずは長い斬馬刀を右手一杯になるまで抜き出す。

 柄から右手を放して鯉口付近の左手に添えるようにしてから更に抜き出し、刀が抜き出されると右手を刀の樋・・溝の部分・・を使って柄まで滑らせるように走らせて左手を中心に刀をくるりと回している間に右手で柄をとり、左手はそのまま峰を押し出すように相手の胴を切り飛ばしたのだ。


 何とか形になったのは決闘の前日の深夜・・いや決闘の当時の早朝にやっと形になったのだ。

 ぶっつけ本番と言っても良い状態で戦いに臨んだのだ。


 美少年は倒れ伏した副長を見つめながら長い斬馬刀を大きく血振をすると懐から鹿皮を取り出して丁寧に刀身を拭い血糊と脂がついていないかを確認してから鞘に納めて俺の前に差し出した。

 斬馬刀を差し出した美少年は副長との因縁を俺に語り始めたのだ。

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