終幕 夢現 ゆめうつつ
「――
年を取った男は、床でうつらうつらしていて目を覚ました。
「……夢か」
かつて、男が代官であった頃の摩訶不思議な出来事であった。
あのような美しい雪を見たのは生涯、ただ一度だった。
「お前は噓つきだのぅ」
いつのまにか、男とも女とも知れぬ美しい者が、男が横たわる
「本当に雪を見たのかのぉ」
「見ましたとも」
不思議なことに、男は、そこにいる美しい者を不審に思わなかった。久しい
「見たいとする心が見たのではないかのぉ」
「それはそれで、かまいませぬのでは?」
おかげで村人を一人も罰せずに済んだ。
あな、ありがたや、
「スガヌマ
美しい者は、ゆうらりと笑った。
「あの若者」
横たわったまま、男は若者を思い出していた。
今では顔立ちも
「ずいぶんと態度がでかいから、どちらが
「かつて、
それは、初代将軍さまがお若かった頃の話だ。
「そうよ、われが守ってきた一族よ、今はどこに行ったやらぁ」
「聞きたいものですな。興味深い」
「来るかぁ? 来るなら聞かせてやらんでもないぃ」
「是非にと。――さて、あなた様のお名前は」
「
いつの間にか、その美しい者はいなくなっていて、布団の端には蓮の花を生けた細長い花瓶だけが残されていた。
「もし。お忘れですよ」
何とも愉快な気持ちに、男はなった。
それから、すうと最後の息を吸って、そして、男から、その息が吐き出されることは、もうなかった。
了
観音さまと夏の雪 ミコト楚良 @mm_sora_mm
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