The day I met you

 その日、僕は彼女と出逢った。

 もともと僕の頭の中にずっといた訳ではない。彼女はこの物語を書こうと思ったときに即興で生み出した、僕の中では珍しいキャラだった。それはつまり、この物語に読者を誘う案内人、ということ。読み手がよりこの世界に没入出来るよう、一番無難に作った子だった。しかしこうして顔を合わせてみると、客観視した自分にしか見えない。彼女はLIFESTORYの世界線を生きる、もう一人の自分なのだ。


 咲穂は作中で、明るく陽気な雰囲気を出しつつも、どこか影のあるキャラとして存在している。その影の部分に、自分との類似点を見出せる。

 彼女は幼い頃、たった一人の家族だった兄を突然失い、その後入った孤児院で仲間を全員殺される…という哀しい過去を背負っている。(これでもまだ、僕のキャラの中ではあまり哀しくない方なのだが。)それ故に世界に対して否定的であり、どこかで──


 そう、そこだ。自分と似ていると感じるのは。

 世界を変えようと決意している訳でない。。それはつまり第三者への責任転嫁、あるいは誰かが私をこの世界から助け出してくれるだろうという、安直な思考と言うことが出来るだろう。確かに咲穂は生まれてこの方、一人で生きたことがない。兄に可愛がられて育ち、孤児院では兄を失った可哀想な子供として甘やかされ、朱音という心優しい上司に養われ、『白い孔雀』という名の絶対神を追い求める。彼らが自分を幸せにしてくれると、勝手に決めつけている。そして彼らがそれを裏切れば、涙を零し次の寄生場所へと移っていく──

 言い方に少し嫌味が含まれているが、この点、自分によく当てはまる。

 

 例えば電車に乗っているとき。席に座り本を読んでいると、老人が乗車してくる。どこかで譲らなくてはと思いながらも、と諦める。テストであまり良い点が取れなくても、と割り切る。


 それは良い意味で言えばと表現できる。しかし、前向きさだけでは人生は渡れない。誰かがやってくれる、次は失敗しないだろう──これは単なる憶測でしかなく、絶対的根拠はない。つまりはなのだ。本当はやらなくてはならない。本当は世界を敵に回してでも叫ばなくてはならない。でも出来ない。しかしそれは自分に自信がないわけではなく、、という妄想に由縁する。


 咲穂は逃げている。自分がやらなくてはならないことを他者に押し付けようとしている。そしてその無意識の依存は、少しずつ影を潜めるものの、物語の最後まで消えることはない。最後自分が誰にも頼らずに自立する瞬間、彼女の瞳は世界を初めて捉え、意志を宿らせる。

 

 物語の冒頭。咲穂が『白い孔雀』の瞳について言及するシーンがある。


【彼と会いたいと願うことは、もしかしたら自分勝手なことかもしれない。でも初めてだった。初めて、あんなにも美しい瞳を見た。少女はその瞳が見据える先の未来を見てみたかった。それはきっと、少女が望む未来と同じであると、そう感じた。】


(『LIFESTORY Vol.1』 2. より)


 咲穂が感じた美しさというのは、意志の強さから来ている。『白い孔雀』の意志の煌めき。それが咲穂が目指す最終地点である。彼女が何を目指し、何に悔やみ、何を目標と生きるか。『生きる』ということの。僕も悩み考えながら書いていきたいと思う。


 咲穂と僕は似ている。だからこそ、僕はこの少女を主人公にしたのだと思う。なぜならば彼女の成長は僕の成長に繋がるから。『白い孔雀』の美しさに息を呑んだのは僕で、弱い己と向き合い生きていくのも僕だ。彼女は僕であり、僕は彼女である。どうか咲穂の成長を、そしてその先にある一人の人間の成長を見守ってほしいと思う。


 彼女を表す曲に『アスノヨゾラ哨戒班』を載せた。哨戒とは、敵襲に対して見張りをして警戒すること。彼女は明日に希望を持ちながらも、明日を警戒する者である。彼女が明日に行けるのは、いつも『君』が助けてくれたから。しかしそんな君がいなくなってしまったら。自分が一人になってしまったら。そこには底知れぬ恐怖が広がっている。しかし人はいつか、与えられる者から与える者になる。歌中の『僕』は『君』になる。その瞬間を、彼女の瑞々しい成長を、どこまでも鮮やかに、美しく書いていこうと思う。

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アスヲタユタフモノ 幻中紫都 @ShitoM

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