宇宙船をもらった男、もらったのは☆だった!?4、宇宙軍少尉

山口遊子

第1話 赴任


 わたし、山田明日香は、地球のアギラカナ大使館に赴任するため第1宇宙港の艦長専用桟橋に着岸した艦長専用艦LC-0001クレイン(艦艇番号LC-0002より艦艇番号を変更している)に父と母が見送る中乗り込んだ。手荷物は小さなキャリーバッグが一つ。


 一介の少尉風情が艦長専用艦に乗り込んで任地に向かうことなど考えられないが、こういう事になってしまった。こういった事情に詳しい母に理由を尋ねたが、父が指示したことでも、コアの当代のアバターのマリアが指示したことでもないという話だった。単純にクレインが地球へ移動する任務があったためわたしが便乗しただけのようだった。


 それは、仕方ないかもしれないが、なぜか、艦の中央指令室にある戦隊司令官席、要はアギラカナ艦長専用席に座らされてしまった。非常に居づらいのだが、クレインの艦長はじめ中央指令室の誰も司令官席に座るわたしのことなど気にもとめず操艦作業を行っているので、諦めて地球まで十時間少々じっと座っていることにした。少し空腹を覚えてきたが10時間程度我慢できる。


 

 座席に座ったわたしは昨日のことをぼんやりと思い出していた。


 当代のマリアから急な呼び出しを受けたわたしは、取るものもとりあえず、アギラカナコア内にあるマリアの執務室に急行した。


「明日香さん久しぶり」


「はい!」


「固くならなくてもいいのよ。

 今日あなたを呼んだのは、あなたが地球に赴任する前に少しだけあなたのうちのこと教えておこうかと思ってね」


「うちのこと? ですか?」


「そう。艦長の家庭のこと」


「はあ」


「あなたも知っている通り、艦長は地球人であなたのお母さん、先代のマリアはバイオノイド」


「はい」


「あなたのお母さんは、生殖能力を持った最初のバイオノイドだったわけ」


「はい」


「それでね、先々代のマリアが、あなたのお母さんを製造する際、あなたのお父さんと結ばれて子供ができた場合、ある能力が発現するよう設計したの。もちろん、あなたのお父さんの性的指向に合致させることも忘れずにね。それで、二人は結ばれて、あなたが生まれたわけ」


「わたしは、先々代のマリアの思惑で生まれたということでしょうか?」


「そういうこと。地球人的倫理観では少し問題があるでしょうが、とにかくあなたはそうやって生まれたわけなの。ある能力を持ってね。

 少し話は変わるけど、アーセン人や地球人などには観測は難しいけれどあるゆらぎが存在していることがわかっていたの。そのゆらぎは遺伝子レベルで受け継がれているらしいってことも。逆に言えば遺伝子を操作すれば、そのゆらぎを極大化できるわけ。

 あなたのお父さん、山田艦長の遺伝子情報を解析したところ、そのゆらぎが異常に大きかったの。艦長との間にできる子供のゆらぎが理論的最大値になるように設計されたのがあなたのお母さん、先代のマリア」


「……」


「あなたも薄々気づいていると思うけれど、あなた、なにか行動したとき、思った以上にうまくいったこととか、予期しなかったことでも自分にとって好都合なことが多くなかった?」


「そう言われれば何度かあったような気もします」


「そういうことなの。それはあなたのゆらぎが先々代のマリアの計画通りだったためなの。そのゆらぎは私たちはあまり縁がないから使わない言葉だけど、地球では『運』っていっているものよ」


「わたしは『運』が大きい?」


「地球では『運』は大小ではなく、強弱表現するようよ」


「わたしは『運』が強い」


「そう。それもとてつもなくね」


「なぜ先々代のマリアはそのようなことをしたのでしょう?」


「ゼノを打ち負かすには『運』が必要と先々代のマリアは考えたわけ」


「はい」


「あなたは、艦長が引退すれば、おそらく次の艦長に就任します」


「そんな」


「別にえこひいきしてあなたを艦長にするわけではなく、実績であなたは艦長に就任するはずだから気にしなくていいのよ。きっとあなたの時代にこのアギラカナはゼノを滅ぼすことができると信じている。わたしも、あなたのお母さんもね。

 話はそれだけ。いっていいわ」


「ありがとうございました。失礼します」


 そういった会話があった。どうしてマリアは赴任直前のわたしにあんなことを話したのかわからないが、なにか意味はあるのだろう。それともわたしは自分の能力・・のお陰で自分の出自を知ることができたのか? 何れにせよ、わたしの地球赴任に悪い影響が出るような話ではない。




「山田明日香少尉、昼食を一緒に食べに行こう」


 気づくと、クレインの艦長に昼食を誘われていた。


「はい!」わたしは元気に返事してクレインの艦長とともに食堂にむかった。


 そういえば昔は経口食を適当に口に流し込んで食事としていたそうで、宇宙艦内に食堂がなかったそうだ。いや、艦内に限らずアギラカナには食堂はなかったようだ。わたしの父がアギラカナの艦長になり地球の食文化がアギラカナに紹介され、徐々にそういったものが普及していったと聞いている。それが軍事的に良かったのか悪かったのかと言えば、計量可能なハード的戦闘力という面では明らかに戦闘力は低下したのだろうが、計量できないどこかで戦闘力が上がっているのではとわたしは思っている。だからこそアギラカナで食文化が普及したとも言える。



[あとがき]

分かりづらいですが、本編『宇宙船をもらった男~』の最終兵器『ディスラプター(ゼノクリーナー)』開発成功の要因説明回になっています。

作者のその他の作品もよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/wahaha7


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