第8話 ヒロイン研修生乃愛はあきらめがはやい!
先生、ついにこの日が来てしまいました。はい、ヒロイン研修最終日ですよね……。え? なんでそんなに目が赤いのかって……? 実は昨日の夜はなかなか眠れなくて……。先生も……? ふふふ、本当だ。先生の目も赤いですね。
先生、わたし、今日は実践ルームを借りてないんです。はい、その通り……です……。ヒロイン研修の最初の日、ここで先生と最初の研修をしました。だから、最後も、このひろいん学園の中庭で終わりにしたかったのです……あっ……やだ……、もう……、絶対に泣かないって決めていたのにぃ……。
先生、ごめんなさい、笑顔で終わりたかったのに……もう最後だと思うと……。てへ、ダメダメヒロインですよね、乃愛……。
——ぐしっ!
はい、涙はおしまい、もう大丈夫です。もう泣きません。泣いてたらもったいないですよね。あ、先生、今日はヒロインステッキでなでなでではないんですね……。はい、乃愛も、ステッキよりも、先生の大きな手で撫でてもらいたいです。あったかくって、おっきくって優しい優しい先生の手の感触、ずっとずっと忘れたくないです……。
先生それでですね、今日は、乃愛、お弁当を作ってきたのです。だって、ヒロインたるもの、お弁当を作るくらいできなきゃダメですよね。最後の日だから、先生と一緒に食べようと思って。そこのベンチに腰掛けて、一緒にお昼をしませんか? なんて、嫌ですか……?
嬉しい! 一緒にお昼を食べるのをこんなに先生が喜んでくれるなんて思ってませんでした! それに、乃愛の手作りが嬉しいなんて言ってもらえて、本当に乃愛も嬉しいです。ささ、早速食べましょう、先生。だって……、こうしている間にも、残り文字数が、ほら、先生見てください、残り2218文字になってしまいました。
そうです。今日、このカウンターがゼロを指した時までに私のヒロイン研修が終わらなくては、わたしはヒロインになれません。最後の
ですね、無駄な説明は抜き、文字数がもったいないですもんね……。
じゃ、早速、お弁当を開けていただきましょ! お弁当の見た目はバッチリだねって? 嬉しい……、頑張ったかいがありました……。
あ、ちなみに、先生は卵焼きは甘い方がお好きですか? それとも塩味がお好きですか? ……甘い方? はぁ、良かった! そう思って、乃愛、今日はうんと甘い卵焼きにしたんですっ! じゃあ、早速卵焼きからだねなんて嬉しいです! あっと……、えっと……、先生、乃愛が食べさせてあげてもいいですか?
——はい、あーん
先生、どうでしょうか? うんと甘口にしてみたんです! あれ? 先生? え? ちょま、先生?! どうしたんですか?! え? お茶、お茶ですね、お茶お茶っと! はい、先生、お茶です! あの、あれ、もしかして甘すぎました!? いやその逆だって? え、うそ……?
——もぐもぐ?
し、塩辛い!? うそ、あれ、まさか……! すいません先生! わたし、塩と砂糖を間違えて入れてしまったみたいですっ! 先生、そんな大笑いしなくても……。最後の最後に、乃愛、やってしまいました……。これじゃあ、本当にヒロイン台無しですよね。最後は何にもなりきらない、ありのままの乃愛でヒロインになりたかったのに……。
泣いてなんかいないです。こっちみてって……、見れないです……。まさかの最後にこんなドジをするなんて……。いいから、こっちみてって……? 先生、こんなヒロイン、ダメじゃないですか? え? 乃愛は充分もうヒロインだよ、ですか……? うそ、こんなダメなヒロイン、砂糖と塩を間違えるだなんて……、そんなドジなヒロイン、ダメですよ。
乃愛はどんなヒロインでも、ヒロインだったよ、ですか? 先生、優しすぎます。乃愛、最初からずっとドジだったし、今だって、最後の日なのにこんなお砂糖と塩を間違えちゃうなんて。それに、先生の昨日のキスの理由も乃愛、知ってます。ヒロイン研修中に、一度だけ先生からキスをしないといけないルールだったんですよね。昨日、担任の先生から聞きました……。それでヒロインになる気持ちが揺らがないかどうかを試すための、テスト……。
先生、わたし昨日の先生からのキス、本当に嬉しくって、ずっとずっと思い出しながら夜眠ることができませんでした。
わたし……、わたし……。先生のことが……。
はい、言ってはダメですよね。知ってます。それを言ってしまったら、もうヒロインにはなれないです。でも、ヒロインってなんなんでしょうか。乃愛は誰かのヒロインになりたくって、このひろいん学園に入って勉強もして、今この最終試験、ヒロイン研修をしています。先輩方はアニメやゲームの世界で沢山の人々に愛されるヒロインキャラとして活躍してるし、わたしもそうなりたいと心から思っていました。
でも、今のわたしは……、わたしは……。先生だけのヒロインになりたいんです。えっと……残り文字数ですか……? 902文字です。
もう余計なことは話さずに、最後の一文字にとっておきなさい、ですか……?
先生、先生はそれでいいのですか? わたしにもう二度と触れることも、二人きりで会うこともできないのですよ? 先生は、本当にそれでいいのですか……? 先生、先生の気持ち……知りたいです……。わたし、この研修で思ったんです。誰からも愛されるヒロインよりも、たった一人でも本当にわたしを愛してくれる人のヒロインになりたいって。そして、わたしが愛するその人が、わたしだけのヒーローなんだって。
このままいけば必ずヒロインに合格できるのに、今までの苦労がもったいないよ、ですか……? でも、先生も、泣いていますよ?
残り文字数、607文字……。
先生、乃愛、あきらめははやい方だと思っています。だって、ヒロインに合格するよりも、もっともっと大事なことを見つけてしまったんですから。
誰かを愛おしく思い、離れたくないって思うこと。ずっとそばにいたいって思うこと。そんな人と一緒に文字数を関係なく一緒にいれたら、それが一番、乃愛の幸せです。だから……。先生、わたしを先生だけのヒロインにしてください。
残り文字数、422文字。
最後の
残り文字数、333文字。
先生、わたしをもらってくれますか?
え? それでは乃愛の夢が、ですか……?
いいんです! 乃愛、あきらめは早い方なので!
先生、乃愛をもらってくれますか……?
嬉しい……。泣いてない、ううん、嬉しいから泣いてもいいんですよね、こういう時は。これでずっと、先生と一緒にいれますね。
じゃあ、最後の一文字を言った後で、今度は本当に大好きのキスを乃愛からさせてください。そうです、「ちゅ」も、カウントされちゃうんですもんね。
でも、その前に……。
先生、ヒロイン研修最終日、ありがとうございました。今日からわたしは先生だけのヒロインです。 先生、大好きです。だから、もう文字数のない世界で一緒に生きていきたいです。あ……先生? ちょっと、まって……先生の唇に触れる前に、最後に一文字を……
完
ひろいん学園研修声、乃愛はあきらめがはやい(G’sこえけん応募作) 和響 @kazuchiai
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