『蔵書を風に曝す』という条件を選ぶ日の出来事。
その環境がストーリーに清やかさを吹き通すのを感じました。
和紙を食む紙魚の様に心に住みかけていた虫と、それが言わせた一言は彼女がそれ以前の彼女に戻ることを許さないかもしれません。
ですが、同時に彼女の、文書の傷みへの適切な対処を促すに似た選択が、彼女自身の紙魚の被害を最低限にし、いつの日か、古文書の風合いの様に人としての味わいとなるのだろう、今は酷薄な風がそれをもたらす、と信じられます。
古くより秋を知らせる風。
古今集の頃の秋を私は思い浮かべながら、それに留まらない未来を見る思いでした。