なぜかついてくる猫
仲仁へび(旧:離久)
第1話
森の中で迷子になっていたら、なぜか猫がついてきた。
その猫は怪我をしていて、皮膚がひきつれていた。
元は美しかっただろうけれど、今は痛々しい見た目になっていた。
どこかの方向へすすもうとすると、猫がついてくる。
不審に思いながら歩いていると、その先は崖だった。
猫はがけの近くで「にゃあ」と鳴いた。
おそらくついてきていたのは、危ない場所があると伝えるためだったのだろう。
今度は猫が私の前に立って、進み始めた。
猫はときおり、どこかに案内するようなしぐさで私の前を進む。
だから私は、その猫についていくことにした。
すると、森の奥に家があった。
その奥にはしわがれた声の老婆が一人住んでいた。
私がその家に向かうと、その老婆はにっこりと笑って出迎えてくれた。
そして、美味しいご飯と寝床を用意してくれた。
「お父さんとお母さんはいつも怖い顔をして私をみるの」
私には帰りたい家がない。
そう伝えると、その老婆はいつまでもこの家にいていいよといった。
私を案内した猫は老婆の飼い猫だった。
その老婆の家にお世話になってから数日後。
森の中にある小さな村へむかった。
老婆と一緒にお買い物をするためだ。
その村には、たくさんのおじいさんやおばあさんがいた。
みな、私がやってくるとしわくちゃの顔に笑顔を刻んで歓迎してくれた。
そして、お買い物をした時にはたくさんのおまけをくれた。
私はどうしてこんな森の中に村があるのだろうと思った。
不思議に思って老婆に聞いてみたけれど、「それは大きくなってから知れば良い事よ」といって、教えてくれない。
よく分からなかったが、聞かない方がいいのだと判断して、その質問はそれきりだった。
やがて、その家で大きくなった私はあいかわらず、おじいさんやおばあさんだらけの村へ出かけていた。
彼等はよく人の名前や顔を間違えるけれど、いつも互いに親切にして、支え合ってくらしていた。
一緒に住んでいた老婆は、とっくの昔になくなっていたので、丁寧に埋葬して墓を作った。
そんな私はある日、森の中で子供を見つけた。
うちで飼っている子猫が少年をはげますように寄り添っていた。
「僕、迷子になっちゃったんだ」
そうつぶやく少年だった。
私はその少年を家までつれていって、温かい食事と寝床を提供した。
そして、「ずっとここにいてもいいよ」と言う。
少年は笑って喜んだ。
「ありがとう。おばあちゃん。だって、お家の人怖いから帰りたくないんだもん」
いつか大きくなったらこの少年も私のように真実を知るのだろう。
ここが要らなくなった人間を捨てる森だと言う事を。
私は子猫をなでる少年を悲しい思いで見つめた。
なぜかついてくる猫 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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