7 頁 (最終話)


 男は再び、私の前に姿を現すのだろう。約束は定かでないが身体を乗っ取るつもりらしいし、本人もまた何かの形でお会いするとか言っていたし。一万円にしても身体を譲るにしても、ちゃんと契約書なりなんなりを用意してほしいものだ。


 奴は嘘をついている気がする。私の曖昧な記憶につけ込んで、どさくさに紛れて騙そうとしている……


 自宅マンションの最寄り駅に着くと、私は母にお願いして本屋へ立ち寄ってもらう。そして、楽しみにしていた今日発売のオカルト雑誌を手に入れた。


 駅前のスーパーにも寄り、夕飯のおかずを買ってタクシーに乗り、帰宅した。


 その晩、寝る前にベッドへ腰かける私は、入手したオカルト雑誌を開く。ページをめくって眺めていると、気になる記事を見つけた。


“メンインブラックは実在した!? 近年、その活動は活発に!!”


 その記事によれば……メンインブラックとは、背の高い黒ずくめのスーツ姿の男たちのことで、彼らは二人組で、未確認飛行物体等の写真を撮った人のところへ現れるそうだ。


 そして、彼らは写真を渡すか削除するかを要求してくる。もし撮影者が素直に応じなければ、さらわれたり、存在を消されるらしい。


 今日の出来事と記事の内容は完全に一致するわけではなく、むしろ全く当てはまらないことも多いが、この胸騒ぎはなんだろう。


 あの男は昨日の写真を消せと言っていたが、昨日UFOのようなものが、私の近くで飛んでいたのだろうか。いや、今後も写真は撮らない方がいいとも言っていた。


 だとすれば、常に私の近くには、何かが見張るように飛行しているのかもしれない……男は私を監視していると、遠回しに警告したのか。互助会の人を装って……名刺やパンフレットさえ何も置いていかなかったし、そもそも、あの互助会は存在するのか。存在したとしても、男が勝手に社員を名乗っていただけかもしれない。


 私は……今この瞬間も私は、感情や考えや、意識に上っていない無意識の領域に至るまで、何かに監視されていたりするのか? そして折を見て、身体は取られてしまうのか?


 もしかしたら……私はあの山の中で、わけのわからないものに出くわしてしまったのかもしれない。


 それから記憶が、脳がおかしくなって、壺の中やら頭の中やら宇宙は全て繋がっていて、私が全てに存在しているとか潜んでいるとか、エネルギーがどうのとか、変に断片的に刷り込まれてしまったのか……


 私の現実は世間の現実と、どこまで同じなのだろう。世間と大きく言わずとも、まずは母にとっての現実と、私の現実の一致はどこまでか。




 昨年、本当に山へ行ったかどうか、これから母に尋ねてみようと思います。






 読んでくださった、あなたへ


 そろそろ私の記憶は重なりすぎ、もう私は無くなってしまいそうです。

 けれど、広く存在し潜んでいるのです。そう全てにです。

 夢、現実、真実、妄覚。私は今、どこにいるのでしょうか。

 いいえ、私は全てに伏在し、あなたの中で遍在しているのです。


 二〇二一年 十一月


                            了

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遍在する私は伏在 春天アスタルテ @1119shunten

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