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 五分くらいして、ガチャッと玄関ドアが開けられた。


「みっ、実理! 実理、大丈夫!? 大丈夫なの!?」


 玄関で泣きながら腰を抜かす私を見た母は、叫ぶように言った。


 そして、私を抱き寄せ、背中をさする。


「う、うん……なんか変な人が来て……おばちゃんは?」


 母に抱えられるようにして居間へ戻ると、私はテーブルの椅子に再び腰かけた。母は買ってきたお茶のペットボトルと弁当をテーブルへひろげる。


「スーパーまでは一緒だったんだけどね。薬局にも行きたいから先に帰ってって。実理から電話があったのに。走って帰るなんて、とんだ大嘘つきよね」


 母は私の隣へ座り、肩をさすってくれる。


「変な人って、さっきの電話で言っていた互助会の人? もう帰ったのよね? あんた泣いてたけど、何かされたの? 本当に大丈夫なの?」


「うん、大丈夫……ちょっと、びっくりしちゃって。四十年以上も前に、おじいちゃんが一万円を払って会員になってるって、言い張るもんだから。解約って言うけど、その書類も見せてくれないし、おじいちゃんを起こそうとするし」


 それよりも、その後のことを話そうか悩む。でも、絶対に話さない方がいいだろう。


 また玄関ドアの開く音がして、興奮する伯母が居間へ入ってきた。


「みーちゃん、ごめんねぇ。遅くなって。ねぇ、帰ってくる途中、なんだか気味の悪い集団を見かけたんだけど」


 伯母は私たちの向かいに座り、続ける。


「喪服みたいな真っ黒なスーツを着た人たちがね、一台のワゴン車に続々と集まって、乗っていくの。こんな年寄りばっかりの町でそんなの見たことないから、ちょっと怖くってさぁ。あれ、もしかしてみーちゃんが言ってた、互助会の人かしら?」


「へぇ……そうなんだ、どうだろうね」


 伯母の話をこれ以上聞く気力のない私は、適当に相槌を打った。幸いにも、おじいちゃんとおばあちゃんは何事もなかったように、寝息を立てている。私と母は静かに弁当を食べ始めた。




 夕方になって、私と母は祖父母の家を後にした。


 帰りの電車の中で思い付き、スマホを取り出す。あの互助会は本当に存在するのか検索してみたかったが、名前を思い出せない。適当にあの地域の互助会を調べてみるが、ピンとくるものはなかった。


 はぁと深く息を吐いて、私は不安に襲われる。


 今日、祖父母の家へ母と一緒に来ていたことは、再び何かの記憶と重なって、現実には無かったことになるかもしれない。


 そもそも、おかしいことはたくさんある。


 あんなに伯母にも祖父母にも会いたくなかったはずの母があの家へ行き、その上、無理を言ったとはいえ、私を連れて行ったこと。


 祖父母と三人だけになるあの状況で、私を置いてスーパーへ行ってしまったのも、今思えば変かもしれない。


 そして何よりも変なのは、あの坊主頭のスーツ男だ。あれは人間じゃない。そういえば、昨日の写真を消せとか言っていたな……


 一応と思い、スマホを確認してみる。やはり昨日に撮った写真は何も無かった。

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