昭和65年の5円玉
NAO
昭和64年 1月7日
「号外! 号外!」
「うっうう……」
「マジかよ……」
日本の各地で同じ混乱が起きていた。年が明け、皆が新年の酔いに舞い踊っていたその矢先、日本という国は一つの時代の幕を閉じた。
「……終わったんだねぇ、昭和が……戦争続きの嫌な時代だったけど、終わってみるとわたしも終わったみたいな気がして、なんだか呆気ないねぇ……」
「そんなこと言うなよ……ばあちゃん。俺、ばあちゃんがいなくなったらどうやって生きてけって言うんだよ」
「……ケンちゃん。ばあちゃんはねぇ、もう過去の人間なんだよ。今を生きているケンちゃんたちはねぇ、ばあちゃんみたいな昔の人間を目印にしちゃぁいけんのよぉ」
「……俺さ、学校卒業しても働けるか心配だよ。ほら……ばあちゃん最近体調悪いし、毎日寂しそうに健太と話してるじゃねえか。俺、ばあちゃんが心配でさ……」
「ばあちゃんは大丈夫さぁ。わたしはケンちゃんが元気に働いて、元気な顔を毎日見せてくれたらそれだけで生きてけるってもんさぁ」
「……それじゃあ俺、頑張るよ。景気も今いいみたいだし、がっぽり稼いでばあちゃんに小遣いやれるようにさ」
「ははは……嬉しいねぇ……」
二人は炬燵に入ったまま時代の移り変わりをテレビで見ていた。記憶にある会話はここまでだ。
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