第4話 元となる土
灰色のひび割れた壁。床には常にホコリが溜まっている。部屋も決して広くはない。そんな孤児院で育ってきた僕は、今日、里親の元へ連れていかれる。
しかし、気分が明るくなったのはほんの数日だけだった。時が経つにつれ、僕はこの神社の人達にとって邪魔でしかないことを実感した。
小学一年生になった春、初めてのクラスでは親に可愛がられない子とクラスメイトに認識され、日に日に周りの態度が冷たくなり、しまいにはイジメまで発展してしまった。先生達は何度も言った。
「イジメは良くないこと。もし誰かにイジメられたらすぐ先生に相談すること。」
何度も、何度も集会で言っていた。それでもイジメは無くなることは無かった。先生に相談したところで、解決したことにはならない、なんの意味もないと、小さな体に出来た大きなアザを見ながらそう思った。
小学校に入学してから初めての夏休みがきた。木に囲まれた神社はセミの音がよく響いている。遊ぶ友達もいなければ、家族と出かける予定もない。ふと、この神社には大きな蔵があることを思い出した。普段はお父さんが蔵に近づくなというので気にしていなかった。
「今日ってお父さんがどこかに出かける日だったよね・・・。」
これはチャンスだ。今日くらい蔵に行ったっていいだろう。誰にも見つからないように蔵に歩みを進める。
とうとう蔵の目の前まできた。すると突然、『シャン』
と音がした。それと同時に蔵のドアが勝手に開き始める。中はホコリっぽく、なんだか蒸し暑い。
『シャン』
とまた音が聞こえた。周りを見渡す。しかしなにも鈴のようなものはない。
『上だよ、上』
という声がきこえた。蔵の屋根に目を向けると、そこには片方の紐がちぎれたボロボロの鈴がフワフワと浮いていた。大きさは神社によくある大きな鈴と全く同じ大きさだ。
『へ〜、君が新しいお客さんだね。歓迎するよ。』
と、今度は八本の尾の狐が僕の真横に現れた。ふわふわのしっぽに体が包まれる。僕は状況がよくわからず戸惑ってしまった。
『2人とも。ちょっとやりすぎなんじゃ・・・。』
と、また別の片耳のよくわからない生き物まで出てきてしまった。
『だってほんとに俺たちのこと見えてるか試したかったんだよ〜。』
『ふふ。ワタクシもこの子の反応が面白くて調子に乗ってしまったわ♪』
なんなんだこの3体の生き物は・・・と僕が不思議そうに眺めていると、鈴のような生き物が僕に話しかけた。
『自己紹介が遅れたな。俺はリンネ!この神社の鈴から生まれたモノノケだ。よろしくな!』
『ワタクシはキュウビ。この神社がある山の神様であるキツネ一族の中の一体なの。よろしくね。』
『自分はココネ。君の、心から生まれたモノノケ。だから君がここに来るのを知ってた。君の考えがよめるから。』
「僕の心が、よめる・・・。」
何故だろう。3体とも初めて出会うのに、なぜか懐かしいと思った。
『んで?君の名前はなんて言うんだ?』
ニヤつきながらリンネが問いかける。恐らく僕の名前を知ったうえで聞いてるのだろう。
「ぼ、僕は九重ひびや。その・・・よろしくね。みんな。」
『よーしひびや!今日から俺たちは仲間だ!同じ《はぐれ者》同士のな!』
「《はぐれ者》って何?」
『少し普通ではない者のことを指すの。何が普通なのかはわからないのだけど、ひびやを含め、ここにいるみんなは《はぐれ者》なの。ほら、私だってキュウビなのにしっぽが1本足りないし、ココネも耳が片方しかないでしょう?』
そう言ってキュウビはしっぽを、ココネは耳を見せてくれた。確かにどちらも欠けている。
「じゃあ、僕は何が欠けてるの?」
『ひびやは、愛情が欠けてる。だから、自分達の仲間。でもね、もう1人じゃないよ。』
『そうそう!今日からは俺たちが愛情ってのを与えてやるからよ!』
『なんでリンネはそんな上から目線なのかわからないけれど・・・、私達がいるからもう安心よ、ひびや。』
そういってキュウビはフワフワのしっぽで、ココネは僕の胸元に、リンネは後ろから抱きついて僕を包んでくれた。そこで初めて、今までの辛かったことを吐き出せた気がした。その日は日が暮れるまで泣き続けた。
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