第5話 重なる葉
二学期が始まって少したった頃、ある噂が流れ始めた。どうやら学校の体育館にある古い倉庫から、夜な夜な人の呻き声が聞こえるらしい。そして、その犯人は九重君であると誰かが言い始めたのだ。そして当然、九重君と仲がいい私にも疑いの目は向けられた。
「君たちがあの噂の原因なのかい?」
放課後、静まり返った教室に私たちは先生に呼び出されていた。
「違います、私達はなにもしてません。ただの噂です。」
「誰かが勝手に言ってるだけです。僕らじゃありません。」
「と言ってもなぁ・・・学校の防犯カメラに九重の姿が写っちまってるんだよなぁ・・・。」
「「え。」」
あまりにも衝撃的な事実に、私達は空いた口が塞がらなかった。
学校が終わったあと、私は九重君と一緒に神社の蔵へ向かった。既に中には3体のモノノケがいた。
『お、ひびや!ちょうどいい、見てくれよ!』
そう言ってリンネが手渡したのはとある新聞記事だった。どうやら20年前、私たちの学校で謎の失踪事件が多発していたようだった。
『失踪した生徒全員が、体育倉庫からうめき声が聞こえると友人に相談していたらしいんだ。今2人の学校で流れてる噂って・・・』
「間違いない。20年越しに、同じことが起ころうとしてるんだと思う。」
『2人とも、少しいいかしら。』
強ばった顔をしているキュウビが改まった口調で話し始めた。
『アタクシ、この失踪事件のことはよく知ってるの。犯人が誰かもわかっているわ。実は昔色々とあってね・・・。今回の事件、アタクシだけで解決したいの。』
そういうと少し俯いて黙ってしまった。
『え、キュウビ知ってたのか?!なんで先に言わないんだよ!』
「それにキュウビだけで解決なんて無茶だよ。相手は今まで何人も生徒を失踪させている凶悪なモノノケだ。僕も一緒に行く。」
「私も一緒に行くよ。キュウビちゃんの力になりたい。」
『キュウビ・・・、自分も、ついて行く。何か、辛い顔してるから。』
『でも・・・』
「僕達がいるから1人で抱え込まないで。家族でしょ?」
〈家族〉という言葉に反応したのだろうか、またキュウビの顔は強ばってしまった。
『ありがとう、みんな。』
そういうとキュウビは月の方角をじっと見つめたまま黙り込んでしまった。
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なかなか寝付けず縁側で風にあたっていた。夜風は少しひんやりしている。先程の話し合いでは、上手く表情を誤魔化せていただろうか。苦しい顔を、していなかっただろうか。どう事件を解決しようかと考えるほど、どうにも苦い思い出が蘇る。
『アタクシがあの時、もっと強ければ・・・。』
どうにかして落ち着きを取り戻そうとする。後悔していても仕方がない。今あるものを大事にしよう。次は絶対守りきるんだ。
『さて・・・。そこにいるのはわかっているのよ、リンネ、ココネ。』
『アハハ、バレてたか〜。目が覚めたらキュウビ居ないんだもん。びっくりしちゃった。』
『それで、キュウビのこと探してたの・・・。やっぱり辛そうな顔してた。』
『心配かけちゃったのね。2人ともごめんね。アタクシは大丈夫よ。寒いからそろそろ中に入りましょ。』
夏が終わりに近づいていく。あと何回この子達と季節を感じることができるのだろう。もう300年近く生きているけど、こんなに生きたいと強く思ったのは初めてだ。
『おやすみなさい、2人とも。』
しっぽで2人を包み込み、そのまま眠りについた。
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