りんごの木から

ひくらみ

第1話 小さな種

 梅雨明けの暑い時期がやってきた。ジリジリというセミの音が、私の思考の邪魔をする。転校初日の自己紹介、ここでヘマをしてしまったら私の学校生活は早々から終わりを迎えるだろう。

 ドアが開く音と共に視線が一気に集まる。隣にいた先生が黒板にデカデカと「甘宮りんご」と書き始める。緊張からなのか、暑さからなのか、汗が止まらない。やっとのことで出した声はあまりにも素っ頓狂で、クラスに冷たい笑いが起きた。そんな中1人、笑わずじっと私を見つめていた男の子がいたことだけが、私の頭から離れなかった。


 

 暑苦しい、という言葉がピッタリなほど今日の教室は暑く、そして息苦しかった。一刻も早く帰って早くキュウビのモフモフに埋まりたいとばかり考えていた。僕にはモノノケしかいないのだと思いながら今まで生きてきた。

 教室のドアが開く音、クラスのざわめき、先生とは別の足音。ふと前を向くと、どこか甘い香りが漂いそうな名前と強ばった笑顔を持つ女の子がクスクスと笑われながらそこに立っていた。僕はなぜか、あの子にならモノノケのことを話せるのではないかと、なんの根拠もないのに思った。




それが僕らの出会いであり、始まりだった。

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