風車のある風景。

ヲトブソラ

風車のある風景。

 私は風車が並ぶ海岸線が大好きだ。とは言え、朽ちて羽根や支柱が折れ、首を垂れている子もいる。白かったであろう塗装は黄ばみ、羽根を回す子が発電しているのかも知らない。


「おっさんいるかー!?」

「おう!馬鹿!」


 風車の基部。整備用の扉が開いていたから中にいると思った。大きな工具箱を下ろす時に「えっこらせ」と言う、おっさん。


「こんなに色んな子がいると飽きないね」

「ナニソレ嫌味?」


 この“風車群”は南北六十キロメートル連なっている。ほぼ、産業廃……いや、遺産だ。こんなに建てるなんて正気の沙汰とは思えないよ、コレ。


「そうだよ。正気だったもんか、馬鹿」


 おっさんは霞の向こうに続く風車を睨む。曰く、幾ら効率が悪かろうが、景観がどうだろうが、高周波の影響があろうが、狂気的に建てなきゃいけない時代があった。



 おっさんは、この“風車群”が作られた時代というのは、今のようにフィッシャー・トロプシュ反応を応用した大気中から得るCo²でメタンやガソリンが作れなかったと海風に呟く。「生産プラントが少なかったから、風車を狂気的に建てるしかなかった」と大きなため息を吐いて、学校で習ったろ、と、機械油で汚れた手で私の髪をぐちゃぐちゃにした。


 もし明日から地球上で、発電出来ません、電車止まります、車動きません、歩いて下さい。そんな世界でお前は生きていけるのか?という意地悪に全力で答えてやろう。


「無理!」

「偉ぶるな。この風車はそんな困難を乗り越える覚悟だったんだ」


 おっさんが大好きな言葉第一位であろう“青春”という言葉を使い「そんな事も出来なかっただろうなあ」と首からかけたタオルで汗を拭った。破損した風車すら直す余裕も無い時代に、青春どころか恋など出来ただろうか。私はこの子たちを必死に建て続けた先に、繋がれた世界で踏ん反り返っているだけでいいのか。


おっさんは、それを伝えるために毎日…………、


「いいや?ただの“独りぼっち公務員”だから面倒臭い事をやってるだけ。これでお給料もらってるし」


私の感動を返せ。


「うーし。定時までに点検終わらせてやる」


 肩を回して、パキパキ首を鳴らす後ろ姿は、おっさんそのものだ。いつも汚れている作業着、機械油まみれの手、すぐに馬鹿と言う。実は互いに名前や年齢を知らない。私は“馬鹿”と呼ばれ、私は“おっさん”と呼ぶ。顔を合わす度、気負わず過ごせる仲になった。ある意味、運命と言えば、そう。違うと言われれば、そう。

 でも、いつもおっさんは運命より“当たり前を感謝しない人生”が、身体に染み込む前に何かやる事はないかと教えてくれる。それらが染み込む前に、私は青春や恋を謳歌したいんだ。


「おっさん!私とさ…!」


おわり。

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風車のある風景。 ヲトブソラ @sola_wotv

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