第3話

この家に来てから僕は、何度も暑い日差しを経験し、冷たい雪を体験した。


その間に、僕を抱っこするほど大きかった赤ずきんが、あっという間に僕より小さくなり、森の中の駆けっこも、僕の方がずっと早くなった。

それでも、途中から、赤ずきんも大きくなった。


彼女が大きくなるにつれて、村の学校から帰ってくる時間が遅くなり、森の入り口で待つ僕は少し暇を持て余す。

帰りの道草の時間もいつの間にか無くなってしまい、僕は寂しかった。


それでも学校が無い日は、僕らはずっと一緒。

赤ずきんと二人で森で遊んだり、彼女が本を読んでいる間、僕は隣でお昼寝したり。

気が付くと赤ずきんも僕の傍で寝ている。


あまりにも可愛い寝顔に、吸い寄せられるように鼻を近づけ、ペロッと頬を舐める。

すると、赤ずきんは一瞬フフッと笑うけど、またすぐに夢の中。

僕もまたもう一度眠りに落ちる。


大きくなっても赤ずきんは真っ赤な頭巾を被っていた。

だから大きくなっただけで何も変わったところは無いと思っていたけれど、たまに赤ずきんから何かとても気になる匂いがすることがあった。

そんな時はついつい、鼻を寄せてクンクンと嗅いでしまう。


何か生臭い匂い・・・

血のような・・・


そんな匂いがすると、なぜか僕の体が疼いてくる。

よく分からないけど、赤ずきんの傍を離れたくなくなる。

ずっと傍にいたい。いや、傍にいなきゃいけない。


彼女を誰にも渡してはいけない。


なぜかそんな風に強く思うのだ。





ある日、赤ずきんはママからお使いを頼まれた。


「おばあちゃんが風邪を引いたから、ここにあるパイとワインを持って行ってちょうだい」


おばあちゃんの家はここから少し遠い。

でも、赤ずきんも僕もおばあちゃんが大好き。


「分かったわ。行こう! ルーちゃん!」


赤ずきんはいつもの真っ赤な頭巾を被ると、テーブルに置いてあるバスケットを手に取った。


「行ってきま~す!」


僕らは仲良く一緒に家を飛び出した。


「走って転んで、ワインの瓶を割ったりしないでよー!」


家の入口からママの叫ぶ声が聞こえる。


「はーい!」


赤ずきんは振り向きもしないで答えた。

僕はチラッとママの方を振り向いた。


「道草しちゃダメよー!」


ママは手を振りながら、まだ叫んでる。


「はーい!」


赤ずきんはやっぱり振り向きもしないで返事する。


「ルーちゃん! 赤ずきんをよろしくねー!」


「ワォーン!」


僕は赤ずきんと違って、ちゃんとママに振り向いて返事をした。

そして、スキップして森の中を駆けて行く赤ずきんを追いかけた。

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