第2話

僕はこの家が大好きだ。

小さい頃に母親とはぐれ、一人で森をウロウロさ迷い歩いているところを、赤ずきんに拾われた。


赤ずきんがずっと僕を抱っこして、家まで連れて行ってくれた。

家に着くと、体を洗ってくれて、美味しいものを食べさせてくれた。

それからは僕らはずっと一緒だ。


赤ずきんが森の中を歩くときは、絶対に僕も一緒に付いて行く。

村の学校に行くときは、朝は森の出口まで送り、帰りはそこまで迎えに行く。


帰り道、赤ずきんは森に入ると、大きな声で歌を歌いながら歩く。

正直、これは僕にとって辛いこと。

悪いけど、耳を塞ぎたくなるくらいの騒音が響き渡る。

残念ながら僕は人間じゃないので、耳を塞げない。

極限までに耳を伏せながら、歩くしかないのだ。


でも、歩きながら赤ずきんが僕の背中を撫でてくれると、そんな騒音など気にならなくなるほど気持ちが軽やかになるから不思議だ。


歌が終わると、今度はおしゃべりだ。


「ルーちゃん、今日は学校でねぇ~」


赤ずきんは今日の出来事を楽しそうに僕に聞かせてくれる。

だから、僕も今日の出来事を君に伝えたい。


君がいない間、僕が体験した森の中の冒険の事。

モグラの巣を発見したこと。

ウサギを追いかけていたら、フクロウに横取りされたこと。

今日もいろんなことがあった。

でも、言葉を持たない僕は君に伝えられない。


切なくなって赤ずきんを見上げるけれど、赤ずきんは可愛い笑顔で僕の頭を撫でるだけ。

でも、それだけで、すぐに切なさが飛んで行ってしまうから不思議だ。


そして、僕らの醍醐味はこれから。

赤ずきんは必ず道草をする。


お花が好きな赤ずきんは、綺麗な花を見つけるとすぐに駆け寄って、摘み始める。

どんどん奥に入り、いろんなお花を摘んで歩く。

そして、そんな赤ずきんに僕がちょっかいを出す。ちょっと飛び掛かってみたり、摘んだお花をわざと食べようとしたり。

すぐに、赤ずきんは笑いだして、二人で追いかけっこが始まる。


僕はこの時間が大好きだ。


こんな風だから、いつも家に帰るのは夕方。

そしていつもママに怒られる。


「道草をしてはダメって言っているでしょう。暗い森は危ないのよ。ルーちゃんが一緒だからって安心してはダメよ」


「はーい」


赤ずきんが素直に返事をしているところに、僕はママの傍に行き、これでもかと言うほど体を摺り寄せる。

ママは、もう、しょうがないわね~と言いながら、優しく僕の頭を撫でてくれる。

その間に赤ずきんは部屋に逃げるのがお決まりだ。


そうやって僕らの日々は過ぎて行った。

ずっとずっとこのまま変わらないと信じたまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る