第4話
小道を暫く進むと、森の中でもちょっと大きな道に出る。
ここの道ではよく馬車を見かける。
車を引いている馬たちは、僕を見ると必ず足並みを乱す。
別に僕はそいつらを食う気なんてないのに、みんな一様に驚くから失礼な話だ。
馬車に乗っている人間も、一瞬驚いて目を見張る。
そして、赤ずきんとお揃いの真っ赤なスカーフを巻いている僕を見て、更に驚いた顔をする。
「嬢ちゃん、そいつは犬なのかい? 狼に見えるが・・・」
「うん、狼よ。ウルフのルーちゃん。可愛いでしょう?」
「へえ、そいつは驚いた」
ここで誰かとすれ違う度に、赤ずきんはいつもそんな会話をしている。
僕はその横を澄まして歩く。もちろん、道路側を。
馬の奴らが赤ずきんに近寄ってこないように睨みを利かせながら。
今日もいつものように並んでその道を歩いていると、後ろから馬に乗った男がやって来た。
馬のひづめの音がしたので、赤ずきんも僕も道の端に避けた。
男と馬は、一度は僕らの横を無言で通り過ぎたのに、少し先に行くとこちらに振り向いた。
「お嬢ちゃん、こんにちは」
男は馬から降りることなく、赤ずきんに挨拶した。
「こんにちは」
赤ずきんは返事をした。
「大きな犬だね」
男は僕を見て、他の人と同じことを言った。
「犬じゃないわ。狼よ」
「へえ?」
男は僕をチラッと見た。
僕はその目を見た途端、何故かゾワゾワっと背中に嫌なものが走った。
僕の毛は首元から尻尾まで一気に逆立った。
男は馬をこちらに向けて近づいてくる。
僕は赤ずきんの前に立ちはだかった。
「本当だ、立派な狼だ。綺麗な毛並みだ。銀色だね・・・」
「そうよ! 綺麗でしょう!」
赤ずきんは自慢げに答えて、僕の背中を撫でた。
でも、僕の背中の毛が逆立っているのに気が付いたのか、僕を宥めるように頭を撫で、顔を覗き込んだ。
「どうしたの? ルーちゃん」
僕は赤ずきんを見ることなく、男を睨みつけた。
でも男は僕を見ていない。赤ずきんをじっと見ている。
その目に僕は全身の血が沸き立つ思いがした。自然と喉元から唸り声が漏れる。
「お嬢ちゃん。どこかに行くのかい? 遠い場所なら馬に乗せて上げよう」
「ううん。大丈夫。もう近くよ。おばあちゃんの家に行くの」
「そうかい。そんなに近くなのかい? ああ、そう言えば、ここいらに家があったね」
「ええ、ハシバミの生け垣があるお家よ。おおきな樫の木が三本立っているそばよ」
「じゃあもうすぐだ。気を付けてね」
男はそう言うと、手綱を引くと馬の向きを変えて、走り去っていった。
男の姿が遠くになっても、僕の逆立った毛はなかなか元に戻らない。
そんな僕を宥めるように、赤ずきんは屈みこんで僕の頭を撫でた。そして僕の顔を両手で包むと、自分の顔に近寄せた。
そして僕の鼻先に自分の鼻を合わせる。
これは彼女が僕に口元を舐めてほしい時にする仕草だ。
僕は彼女の唇と頬を舐めた。
何度も舐めているうちに、気持ちが落ち着いてきた。
でも、今度は別の気持ちが湧き上がる。
体の奥が疼き、赤ずきんをずっと舐めていたくなる。
僕は前足を、赤ずきんの手にかけた。
その時、赤ずきんは、僕の耳の後ろを優しく撫でて、僕から顔を離すと立ち上がった。
「さあ、おばあちゃんのお家に急ごう!」
赤ずきんはにっこり微笑んで歩き出した。
僕は体の中の疼きを抱えたまま、赤ずきんの後ろを歩いた。
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