第6話

男は扉から飛び出して駆けだそうとしたが、階段を踏み外して、そのまま家の前に転がった。


すぐに起き上がろうとしたが、僕が飛び掛かる方が早かった。


僕は自分の下に組み敷いた男を見下ろした。

唸り声を上げながら男を睨みつける。

僕は男の首元を狙って、大きく口を開けた。


次の瞬間、


ズキューン!!


とてつもなく大きく、耳をつんざくような音が聞こえた。

それと同時に、僕は地面に倒れた。

何が起こったのか分からないが、体が動かなくなった。


僕が倒れた隙に男は、這うように僕から離れた。


「大丈夫かー!?」


遠くから別の男の声が聞こえた。

こっちに向かって走ってくる足音も聞こえる。


その間に、僕の獲物・・・、いや、おばあちゃんを襲った男は、何とか立ち上がって逃げようとした。

僕は逃がすまいと思うのに、体が全く動かない。


「いやあー! ルーちゃん!!」


赤ずきんが家から飛び出して、僕のところに駆けつけた。

そして、倒れた僕に抱き付いた。


「ルーちゃん! しっかりして! お願い! 死なないで!」


耳元で赤ずきんが泣き叫んでいる。

何で泣いているの? 泣かないでよ。


「なんてことをしてくれたんだい! この子は私たちを助けてくれたんだよ! あいつが! あいつが、強盗だよ! 早くあいつを捕まえとくれ!」


赤ずきんの後ろで、おばあちゃんも泣き叫んでいる。


「なんだって? 狼に襲われたんじゃなかったのか・・・っ!」


その後すぐに、何やら遠くで男たちの慌ただしい声が聞こえだした。





「ルーちゃん! しっかりして! 泥棒なら捕まったよ! ねえ!」


赤ずきんが僕の頭を抱きしめながら叫んだ。

強く強く僕を抱きしめる。

赤ずきんの体温と匂いを感じて、僕は何とか目を開けた。


「ねえ! ルーちゃん! ルーちゃん!」


赤ずきんは僕の名前を何度も呼んでくれる。

それに応えたいのに、僕の体は動かない。


赤ずきんは僕の顔を両手で包み、泣きながら僕の鼻に自分の鼻を合わせた。

でも、僕は君の期待に応えられない。


泣いている君の涙を、頬を、唇を舐めて安心させてあげたいのに、僕の舌はだらしなくだらっと垂れたまま動かないんだ。


僕は必死に赤ずきんの顔を見た。でも、もう君の顔が掠れてよく見えない。


君の可愛らしい顔を覚えておきたい。

君のこの甘くて優しい匂いを覚えておきたい。


ああ、赤ずきんちゃん。僕を離さないで。

もっと強く抱きしめて。もう感覚がないんだ。

でも、僕は君の温もりを最後まで感じていたい。


ああ、何で僕は人間に生まれなかったんだろう?

人間に生まれていたら、君にたくさんの言葉を贈れたのに。


ねえ、神様。


今度生まれてくるなら、僕は人間に生まれたいな。

そうしたら、もう二度と君の傍を離れないんだ。

そして、君に伝えるんだ。


愛してるよって。

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赤ずきんちゃんの狼 夢呼 @hiroko-dream2

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