雨が上がるまで待って
尾崎中夜
雨が上がるまで待って
雨が上がるまで待って
登場人物
●傘原由佳(かさはら・ゆか)……少し病んでいる女の子。
●雨宮理穂(あまみや・りほ)……由佳のことが好きな女の子。
場所設定
●理穂の部屋(女性の一人暮らし。舞台中央に座卓がある。ちょっとだけ少女趣味が入った部屋)
SE、雨音(雨は幕が降りるまでずっと降り続く)
傘原、アロマキャンドルに火を灯す。暗い部屋が少し明るくなる。
舞台中央に座卓。
傘原、気怠げな口笛(左手首に包帯を巻いている)
SE、インターホン。
間。
SE、インターホン。
傘原「(溜め息)開いてますよー」
雨宮「え?」
傘原「開いてますよー」
雨宮「あ、うん」
雨宮、下手袖から登場。
スーツがよれよれになっている。
傘原「おかえり」
雨宮「うん。ただいま~! 疲れたよ~」
雨宮、床にへたり込む。
傘原「お仕事お疲れ様」
雨宮「ありがと。……えーっと、部屋、暗いねー」
傘原「明るいのちょっと億劫だったから。嫌なら明るくするけど」
雨宮「あー、いいよいいよ。由佳ちゃんそういう気分なんだよね。なら、気にしないでいいよ」
傘原「……そう。じゃあ、このままで」
間。
雨宮「これさ、誕生日にあげたやつだよね」
傘原「そだよ。理穂から貰ったやつ。結構気に入ってんだ。色が暖かくて、落ち着くの。暗い部屋にもよく馴染むし」
雨宮「でしょー」
傘原「うん。好きだな。この色」
雨宮「私も好きだよ。ゆ~かちゃん!」
雨宮、傘原に抱きつく。
傘原「んん? 何だいこの甘えん坊さんは?(くんくん)お酒入ってる?」
雨宮「ちょこっとだけ」
傘原「何杯飲んだの?」
雨宮「何杯飲んだと思う?」
傘原「さぁ?」
雨宮「つれないなぁ」
傘原「……とりあえずさ、離れてくんない? それから、顔洗って、シャワー浴びて、とにかくしゃきっとしなよ」
雨宮「うーん。シャワーは明日ゆっくり浴びる~」
傘原「別にどっちだっていいけど、あーあー、スーツに皺寄ってる。ほら、行った行った」
雨宮「ふぁい」
雨宮、傘原の頬に軽くキス。
あはは、と上機嫌に笑いながら、上手袖にはける。
傘原「酔っぱらいめ」
理穂が着替えている間、暇を持て余す傘原。
しばらくして――
理穂、ばたばたと慌てて戻って来る。
雨宮「ごめんごめん。由佳ちゃん!」
傘原「今度は何?」
雨宮「私、その、粗相とかしなかった?」
傘原「粗相?」
雨宮、こくこく頷く。
傘原「あー、そうだね。押し倒されて、Dのつくキスされて、それからそれから……あは。危うく食べられちゃうとこだった」
雨宮「嘘! そんなに!」
傘原「普段大人しい顔してる子ほどリミッター外れると凄いもんだね。まったく……ま、嘘だけど」
雨宮「へ、嘘?」
傘原「うん。嘘だよ」
雨宮「ほら、やっぱり。いくら何でもそこま――」
傘原「抱きつきからのほっぺチューは本当だけどね」
雨宮「あ、え、あー、ごめんね。私の下心さんが、つい」
傘原「それはいいけど。にしても、今夜はやけにご機嫌だね。何かいいことでも――あ、例のプロジェクト終わったんだ」
雨宮「(Vサインしながら)うん。今日ようやく終わったの!
まだちょこちょこっとした事務処理は残ってるけど、大枠はほとんど出来たから!
それで、今夜打ち上げだったの。……あれ、遅くなるってメールしなかったっけ?」
傘原「ごめん。たぶん私、電源切ってた」
雨宮「由佳ちゃんたら」
傘原「ごめんごめん。それで打ち上げの方はどうだったの?」
雨宮「とっても楽しかったよ。久々に美味しいお酒が飲めたし」
傘原「よかったね。あと、プロジェクト終了おめでとう」
雨宮「ありがと」
傘原、時計をチラと見て
傘原「十一時……。せっかくの打ち上げなんだから、もう少し遊んでくればよかったのに。二次会とかなかったの?」
雨宮「あったけど、お誘い断っちゃった」
傘原「もったいない」
雨宮「だって、早く帰りたかったんだもん」
傘原「早く帰って来たって何もすることないでしょ? それこそ、あと歯磨いて寝るだけじゃん」
雨宮「そうだけどぉ(上目遣い)」
傘原「?」
雨宮「……由佳ちゃん。私の頭、撫で撫でしてくれない?」
傘原「…………」
雨宮「私、ほらさ、今回のお仕事一生懸命頑張ったからさ、ご褒美に由佳ちゃんに頭撫でてほしいの。……駄目かな」
傘原「お安い御用だけど……(頭を撫でながら)こんな感じ?」
雨宮、撫でられているうちに涙ぐむ。
傘原「おーい、そんな泣くことないでしょ」
雨宮「だってだって、凄く大変な仕事だったんだもん! いっぱい残業したし、いっぱい怒られたし、ここ数ヶ月、由佳ちゃんとゆっくり過ごす時間もなかったから……だから、だから」
傘原「理穂は頑張り屋さんだからね。よしよし。よく頑張った。理穂は偉いよ」
雨宮「ありがと。由佳ちゃん大好き」
傘原「…………どういたしまして」
しばらくして――
雨宮、泣き止む。
傘原「そうだ。ご褒美で思い出した」
雨宮「え、何なに?」
傘原「ちょっと待ってて」
傘原、上手袖にはけ、ケーキを取ってくる。
お皿やフォークを並べながら
傘原「そう大したものじゃないんだけどね。頑張った人にご褒美」
雨宮「え、嘘。凄く嬉しい!」
傘原「喜んでもらえて何より。理穂、甘いもの好きだもんね」
雨宮「うん。大好き大好き。由佳ちゃんの次に大好き。由佳ちゃんありがと~!」
雨宮、傘原に抱きつく。
傘原「まったく。この甘えん坊さんは。――さ、とにかく食べようよ」
雨宮「はーい」
BGM、雨の夜に合うしっとりとしたもの。
二人、ケーキを食べながら身振り手振りで演技。
BGM、フェードアウト。
雨宮「ねぇ、由佳ちゃん。明日お出かけしない? 久々に土日連休だから。どこか行こうよ!」
傘原「明日? んー、明日雨じゃなかったっけ?」
雨宮「そうだっけ? 明日はたぶん晴れだよ」
傘原「そっか。晴れかぁ」
雨宮「お出かけ嫌?」
傘原「別にそういうわけじゃないけど、ちなみにどこ行くの?」
雨宮「由佳ちゃんはどこ行きたい?」
傘原「私は別にどこだっていいよ」
雨宮「じゃあ、海沿いの道をドライブとか? 水族館に行くってのもいいね。ぷかぷか浮いてるクラゲ見て、癒やされたくない?」
傘原「私はそれでもいいけど、理穂はどっかないの? 行きたいところ」
雨宮「私? 私はあんまり」
傘原「この前、新しいブラウスが欲しいとか言ってなかったっけ?」
雨宮「あー、そんなことも言ったような、言ってないような……でも、別にいいよ。服なんていつでも買えるし、私、由佳ちゃんの行きたいところがいい」
傘原「……じゃあ、考えとくよ」
雨宮「うん!」
雨宮、傘原の肩に頭を乗せる。
雨宮「由佳ちゃん」
傘原「ん?」
雨宮「好きだよ」
傘原「知ってる」
雨宮「私のこと好き?」
傘原「好きだと思うよ」
雨宮「…………」
傘原「私、嫌いな人と一緒に暮らせるほど器用な人間じゃないから」
雨宮「嫌いじゃないってことだよね?」
傘原「もちろん」
間。
雨宮「ねぇ。今夜一緒に寝てくれない?」
傘原「…………」
雨宮「ぎゅってしてほしいの。あと、他にも色々……駄目?」
傘原「理穂、今夜はゆっくり寝なよ。頑張りっぱなしでお疲れでしょ?」
雨宮「じゃあ、明日?」
傘原「どうだろう?」
雨宮「……明後日は?」
傘原、どこか面倒臭そうに首筋を掻く。
雨宮「……何かしちゃったかな?」
傘原「そんなことないよ」
雨宮「変なこと言っちゃった?」
傘原「それもない」
雨宮「嫌いになっちゃった?」
傘原「理穂みたいな子、嫌いになるわけがないよ」
雨宮「重いかな?」
傘原「ちょっと」
間。
雨音がやけに寂しく聞こえる……。
SE、電話が鳴る。
傘原「電話だよ」
雨宮「いい。あとで出るから」
傘原「職場の人とかじゃないの?」
鳴り止まない電話。
雨宮「ごめん。すぐ済ませてくる」
雨宮、上手袖にはける。
雨宮「はい。雨宮です……お疲れ様……あ、うん。ちゃんと帰りついたよ。心配してくれてありがとう……え、明日? ……ごめん。明日は予定入ってて……ごめん。明後日もちょっと。……お誘いは嬉しいけど、デートなの。だから……うん。そういうことだから……誘ってくれてありがとう……はい。また来週。頑張っていこうね。お休みなさい」
聞き耳を立てていた傘原、「馬鹿だなぁ」と一言呟く。
雨宮、戻って来る。
雨宮「ごめん。職場の人からだった」
傘原「行けばよかったのに」
雨宮「! ……やだな。行くわけないじゃん。今の人ね、女たらしで有名なんだよ。友達が何人も泣かされてるんだから。ああいう人、私、大嫌い」
傘原「へぇ……。じゃあ、他には? 理穂の職場、結構大きいとこだし、他にいるんじゃない? いい男」
雨宮「いないよ。全然」
傘原「ふぅん。見ようとしてないだけじゃないの?」
雨宮「……どうして、そんなこと言うの?」
傘原「居候が言うのも何だけどさ。理穂、行き止まりだよ」
雨宮「…………」
傘原「私が言うんだから、そういうことなんだよ」
雨宮「言わないで。聞きたくない」
傘原、一息ついて
傘原「理穂が求めているもの。私は形でしかあげられないよ。理穂が望むならキスもするし、耳たぶの甘噛みだってする。もちろんそれ以上のことだって。
……でもね、心は絶対にあげられないと思う。傘原由佳ってそういう人間だから。昔から情が薄いんだ」
傘原、雨音に耳を澄ませる。そして、天井を見上げながら、ふと切り出す。
傘原「雨の夜だからさ、ちょっと自分語りするね。独り言みたいなもんだから、聞きたくなかったら、耳塞いでてもいいから」
雨宮「……ずるい」
傘原「はは。こんな言い方されて耳塞げるわけがないよね。うん。私はずるいよ。ずるい上に重度の構ってちゃん。自分でも時々嫌になるよぉ。依存癖もなかなかのもんだし。手首切ったり、ODしたり、土砂降りの雨に打たれてみたり、毎回その時はもうどうにでもなれーって思ってるくせに、どっかで死なない程度に調整してるんだよね、私ってば。
死にはしないけど、周りの気が引けるぐらいの痛みとか苦しみを演じるの。作られた悲劇のヒロイン? そんなとこ」
傘原、自分の言葉に何度か頷き、それから左手首の包帯を撫でる。
傘原「みんな親切だからさ、作られたヒロインでも同情してくれるわけ。文無しの私にお金を恵んでくれたり、温かいおでんを奢ってくれたり、『しばらく泊まってく?』って、ヘソから下を膨らませながら言ったりなんかしちゃってさ(小さく笑う)
『命を大事にしなさい』って何回言われたか、もう数えるのが面倒」
傘原、頬杖を突きながら
傘原「明けない夜はない。生きていれば必ずいいことがある。今、苦しくても頑張っていればいつかいいことが……いつか、いつか、いつか!」
傘原、座卓を叩く。
傘原「『いつか』っていつよ? 今じゃないの? みんなみんな頭空っぽのまま決まり文句みたいに言うけどさ、いつかっていつ? いつかっていつ!?
マニュアルでもあるわけ? そういう落伍者を相手にする時のさ?」
雨宮、興奮している傘原を静かに見守っている。
傘原「……ごめん。ちょっと興奮しちゃった。駄目だな。気分が上向きになるとすぐこれだ」
傘原、「反省反省」とこめかみを指差す。
雨宮「一番悪い状態は、抜けたんだよね?」
傘原「おかげさまで。二日前ぐらいに抜けた感じ。今、生きてるのがとっても楽しいよ」
雨宮「だったら、私も嬉しいよ(と言いつつ、笑顔がぎこちない)」
傘原「ケーキのお金だって稼げたしね」
間。
雨宮、青ざめる。
雨宮「由佳ちゃん、もしかしてまた――」
傘原「それは、理穂の想像に任せるよ」
雨宮「そんな、私、止めてよ。そういうの。そういうの、望んでないから」
傘原「でも、それはもう、お互いここらへんだから(自分のお腹を指差す)」
雨宮、いやいやする。
傘原「出会った頃にも言ったけどさ――そう言えば、私と理穂が出会ったのも今日みたいな雨の夜だったね(泣いてる理穂を見ていられない)
……ま、そんなこと今はどうでもいいんだけど、私、やっぱり理穂のいい人にはなれないよ。大切な人とか命の恩人とか、かけがえのない人達に、私いっつも後ろ足で砂かけるようなことばかりしてきた。病気だと思うよ、ほんと。
……ほら、最低でしょ?」
雨宮「でも、由佳ちゃん……そんな自分、嫌いじゃ、ないでしょ?」
傘原「たぶん。愛憎入り混じってる感じ。
でも、変に楽しいこと考えるよりも、自分の嫌なとこ数えてる方が慰められる夜だってあるんだよ、たまに」
雨宮「そんなの不健全だよ」
傘原「理穂には分からないよ」
雨宮「分かりたいよ! でも、分からないよ。由佳ちゃんのそういう生き方……。
こんなこと続けてたら、由佳ちゃん、ただでさえ情緒不安定なのに、いつか取り返しのつかないことになるよ」
傘原「だろうね。……でも、そういう『いつか』なら悪くないね」
雨宮、分からないよと首を振る。
傘原「『いつか幸せになれるよ』って言われると、憂鬱な気持ちになるけど、『いつか破滅するよ』なら、そういういつかなら……何かちょっと嬉しいかも。優しい。
私にとって人生って、暗闇の中、延々と続く線だったり、くるくる虚しく回り続けるだけの歯車だったり、とっても疲れるものなの。あてのない幸せを考えるのって結構しんどいもんなんだよ」
雨宮「そうやって四六時中悲劇に浸っていたって、何にも変わらないよ。それこそ疲れるばっかりじゃない」
傘原「うん。何にもなんない。自分で自分を小さな箱の中に押し込んでおきながら、『青空が見えないよー』って嘆いてるようなもんだからね。
理穂の言うとおり本当に無駄なことだよ。でもさ、そんな馬鹿げたことでも私にとっては心のバランスを保つために必要不可欠なことだし、それさえ許されなかったら、私、今頃発狂してるよ。私が私ですらいられないんだから」
間。
傘原「理穂。私、ここを出て行くよ」
間。
雨宮「ずっとずっと、いつか今日みたいな日が来るんじゃないかって思ってたけど……嘘じゃ、ないんだよね?」
傘原「私だって、ついていい嘘とついちゃいけない嘘ぐらいわきまえてるよ。それに、理穂にはそういう嘘死んでもつきたくない」
雨宮「本当に、出て行くんだね……」
傘原「うん」
雨宮「どうして?」
傘原、雨音に耳を澄ませながら
傘原「気まぐれな雨に唆されたってことにしといて」
雨宮「……いつ出て行くの?」
傘原「そう遠くないうち」
雨宮「行くあてはあるの?」
傘原「(首を振り)たぶん、また誰かが助けてくれるよ。日本はいい国だから」
雨宮「誰も手を差し伸べてくれなかったら?」
傘原「その時はその時だね」
雨宮「私のところには――」
傘原「もう戻って来ないよ」
雨宮「私のことそんなに嫌いなの?」
傘原「そうやって相手を試そうとするの、理穂の悪い癖だよ」
雨宮「ごめんなさい」
傘原「私みたいなのが偉そうに説教垂れる方がちゃんちゃらおかしいことだけどさ、理穂はさ、もっと自分に自信持たなきゃ駄目。
理穂は私が今まで出会って来た人達の中で一番温かい子だったよ。理穂の作ったご飯食べてる時、私いつも『ずっとここにいられたらな』って思ってたんだよ。
……今だから言うけど」
雨宮「なら、いてよ」
傘原「それは無理。私、一つの場所に根を下ろして生きる生き方を知らないからさ、これからもずっと色んなところを渡り歩いて渡り歩いて、それから先は、風に訊いても答えちゃくれないだろうね(肩を竦める)
これ以上幸せを噛み締めたら、私が私でなくなっちゃうから。
だから、私は行く。最後までワガママでごめんね」
雨宮「私は、どんな由佳ちゃんでも愛せるよ」
傘原「理穂なら、あるいはそうかも知れないね。でも、私は行く。結局のところ、ワガママで傲慢な私の個人的な問題なんだよ」
間。
傘原「実はもう荷物もまとめてるんだ」
雨宮「そう、なんだ(俯く)」
傘原、雨宮の肩に手を置き
傘原「理穂は、『私』のことも『あいつ』のことも忘れなきゃ駄目。理穂なら素敵な『いつか』を見つけられるから。
だから、だから……歯食い縛ってでも『いつか』を探して。私が言ってること分かる?」
雨宮「(頷き)見つけられるかな、私に? あの人のことだって、未だに夢見て泣いちゃうぐらいなのに……」
傘原「理穂は、私の言葉だけ信じてればいいの。……私の言葉だったら、信じられない?」
雨宮「信じて、いいの?」
傘原「いいよ。私でよければ」
雨宮「……なら、少しずつ歩いてみる」
傘原「前にね」
雨宮「うん。後ろ向きに歩くのは、もう疲れちゃった」
傘原「それがいい。後ろに歩くのは、お月様が綺麗な夜だけでいいよ」
二人、笑い合う。
雨宮「由佳ちゃん。肩貸して」
傘原「どうぞ」
雨宮、傘原の肩にもたれる。
間。
傘原「理穂が幸せを掴めたらさ、皿洗いしてる時でもお風呂に入ってる時でもいいや。時々でいいから、私のことを思い出してくれたら嬉しいな」
雨宮、泣きそうになるが、ぐっと堪える。
雨宮「由佳ちゃんのこと、忘れるわけないよ」
傘原「……ありがと。私も行く先々で時々思い出すよ。理穂の唇の柔らかさとか、甘い卵焼きとか赤ちゃんみたいに可愛い寝顔とか」
雨宮「寝顔は、ちょっと恥ずかしいかな」
傘原「ふふ」
雨宮「私も忘れないから、由佳ちゃんも忘れないでね」
傘原「約束する。指切りしようか?」
雨宮「ううん。いい。由佳ちゃんは約束守ってくれるもん」
傘原「守るよ。私も……理穂のこと、好きだから(照れ臭そうに)」
雨宮、とうとう涙が零れる。
雨宮「ねぇ、由佳ちゃん」
傘原「ん」
雨宮「お願い。――雨が上がるまで、待ってね」
傘原「うん。待つよ。雨が上がるまでは……」
泣きじゃくる雨宮。
そんな彼女を優しく見守る傘原。
雨は降り続く。降り続く。降り続く……。
舞台徐々に暗くなる。
――終わり――
雨が上がるまで待って 尾崎中夜 @negi3
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