「俺たちのラブラブはこれからだ!」

 パトカーから巡査おまわりがふたり降りてきた。

 顔なじみのオッサンと、新顔の女性警察官おねえさん

 被害女性の気持ちに寄り添える巡査おまわりがいたのが不幸中の幸い。

 衣服を破られた可奈かなを見て、すぐジャケットを掛けてくれた。


 追って県警のパトカー、救急車がそれぞれ数台駆けつけた。

 俺はオッサンから、可奈かな女性警察官おねえさんから、それぞれ車の中で事情聴取を受けた。

 五人もぶっ倒した俺はぎ、つまり「過剰防衛」を疑われたが――。

 可奈かなが隠し持っていたボイスレコーダーの中身が、警官らの考えを一変させるほど悲惨な状況だったこと。五人のうち、二人の凶器の所持が明らかだったこと。これらの事情から、最終的に正当防衛とみなされた。

 病院送りになった五人は、後日、強制性交未遂などの容疑で取り調べを受けた。


 警察から、親と学校に連絡が入った。

 おふくろが、タクシーで駆けつけた。

 憔悴しきった可奈かなの姿を見て、すべてを理解したおふくろの頬に光るしずく


(また、おふくろを泣かせちまったな)


 見知った大人の顔を見た可奈かなが。

 おふくろに抱き着いて、初めて大声を上げて泣いた。


可奈かなの両親がいたら、同じように抱きしめてくれたんだろうけど)


 両親がそばにいない。ひとりぼっちの可奈かながあまりにもかわいそうで。

 俺自身の身も心も切り刻まれるくらい、つらい一日になってしまった。


 ***


 可奈かなに預けていたボイスレコーダーは、現場から逃走した三人の女子生徒の肉声もきちんと録音していた。

 これが決定打となって、三人の女子生徒は警察の取り調べを受け、五人の高校生に性的暴行を教唆きょうさしたのがバレた。

 その女子生徒からの「密告」でハゲ頭の教頭が俺と可奈かなの関係を疑っていたこと、それらがスクールカウンセラーに一切共有されず、根回しなしに高圧的な生徒指導に至ったことも露見して、スクールカウンセラーを激怒させた。

 教育委員会を巻き込む大ごとになったそうだが、どうなることやら。

 そして、カンニングを疑われた俺と可奈かなは、二週間で書きためたノートや小テストの答案を全部学校に提出。身の潔白を証明した。


(――可奈かなが望んだとおり、ふたつの奇蹟を起こしてやった)


 数学の点数は驚異の九一点。今までの三倍。

 でも、喜べなかった。

 一緒に喜んでくれたはずの大天使様が、「翼の折れた天使エンジェル」にみえたから。

 可奈かなの家まで迎えに行き、恋人つなぎをして、送り届けるだけの日々。

 それも、今日でおしまいだ。

 一学期の終業式が終わって、俺は可奈かなを家まで送った。


「着いたよ、可奈かな

「……うん」


 いつものように家に送り届けるだけの日々。そう思ってた。

 だけど、可奈かなが手を放してくれない。


「――いつまでなの?」

「なにが?」

「いつまで私に気を遣ってるつもりなのッ!? この、いくじなしッ!」


 驚いた。

 可奈かなが綺麗すぎる双眸そうぼうに涙をためて。

 俺がずっと触れずにいた洋梨に、掴んだ手を押し付けてきたんだから。


 ***


 何日ぶりかの可奈かな

 今年何回目かの猛暑日。

 汗だくになった俺と可奈かなはシャワーを浴びた。

 ガウンを着たどうし、互いに汗ばんだ手を握り、肩を寄せ合った。


「今日のおさわりは何分まで」

「――お好きなだけ、どうぞ」

「なッ!?」


 メガネなしの可奈かなの真っ青な瞳は、もう熱っぽくみえる。


「ずっとおあずけだったから――気が済むまで、触って」

「じゃあ、一晩じゅう」

「――嘘でしょ!?」

「冗談だよ、冗談」


 笑いかける俺に、可奈かなは笑わなかった。


「――いいよ。ずっと、そばにいてくれるなら」

「……ッ!?」

「言ったじゃない。毎日触らせてくれたら、一生かけて守ってやるって」


 笑えない。さすがに。


「おさわりだけじゃ済まなくなっても、いいのかよ」


 黙って頷いたおとがいを、くいと上げた。


「前さ、頬っぺたにキスもらったよな」

「うん」

「――唇にもらっても?」

「――うん」


 目をつぶった大天使様が、祝福のキスを与えてくれる。

 頬っぺたじゃなくて、俺の乾いた唇の上に。

 親愛の情を越えた先にある恋愛対象として。


青葉あおばくん――私を守ってくれた、大好きなひと」

「俺だって、誰よりもお前が大好きだぜ。可奈子かなこ


 初めて名前を呼び合い、裸で抱きしめ合って、何度もキスを求めた。

 おさわりを続けながら、キスを繰り返して。

 高まり合った気持ちのまま、一晩じゅう抱き合って、一緒に眠った。


 翌朝、スマホの通知で目が覚めた。


「――ん?」

「どうしたの?」

「おふくろからLINE」

「お母さん、早起きなんだ」

「花屋だしな。可奈かなちゃんつれて、朝ごはん食べにおいでって」


 可奈かなの両目に涙が浮かぶ。

 さらに通知がもうひとつ。


 ――外泊は良いって言ったけど、ちゃんと避妊した?――


「「まだ、ヤってないからッ!!!」」


 俺たちのラブラブはこれからだ!


【完結御礼】有馬美樹先生の次回作にご期待ください

https://kakuyomu.jp/works/16817139557626411662

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【短編版】図書室の隅っこでイジメられてた、おさげのメガネっ子を助けたら告られたんだけど、実はすげー巨乳の美少女だった ~今さら他のヤツが気づいても、もう遅い~ 有馬美樹 @maria_sayaka

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