二章 入れ替わって学校へ
第9話 冬休み明け①
冬休みというのは案外短い。
正月が終わり、ぼーっとしていたらもう始業式だ。
たとえ"入れ替わり"という謎現象がなにも解決していなくても、時間が経てば勝手に学校が始まる。
「菜月、本当に大丈夫なのか……?」
「もちろん、ちょー大丈夫でございます」
「冬子はそんなアホっぽい喋り方はしない」
「アホっぽくないでございます。ちょー知的でございます」
「ございますって付ければ丁寧になると思ってないか……?」
こりゃダメだ……。
菜月は自信満々に家を出たはいいが、学校に着く前にすでにダメそうである。
冬子は家族にすら隠し通したというのに、この体たらくよ……。
まあ最初から菜月に演技ができるとは思ってないけど。
「もー! いいじゃんちょっとくらい変だって。冬休みでイメチェンしたのかな? って思うくらいだよ」
「お前、冬子が築きあげてきたイメージを崩す気か?」
「むしろ人気上がっちゃうかも」
もっと深刻そうにしろよ……。
この入れ替わりという現象、一番の問題は周囲の人物との関係なのだから。
「むー、わかったよ。ちゃんとやるから!」
「ぜひそうしてくれ」
不安だ……。
対して、冬子は安心して見ていられるな。
まだ学校に着いていないというのに、すでに菜月の表情をしている。
「兄さんとクラスメイト……なんて素晴らしい……」
「同じクラスならフォローしやすいし、よかった」
本当にフォローしたいのは菜月なんだが、学年が違う以上どうしようもない。
胃が痛い一日になりそうだ。
冬子はにまにましながら、俺の裾をそっとつまむ。
「私、兄さんと学校生活を送るのが夢だったんです。せっかく兄さんと同じ高校を選んだのに、全然会う機会ないですし」
「まあ、一年生と二年生だからなぁ……」
「一緒に青春しましょうね」
冬子、そんなこと思ってたのか。
照れるようにはにかむ冬子を見ると、こっちまで照れてくる。
妹と青春……?
割と楽しそうじゃないか。
「ちょっと冬子、私はそんなふうにくっついたりしないよ?」
「む……いいじゃないですか。まだ学校ついてないし」
「ダメだよ! 私が痴女だと思われたらどうするの!」
「私だって、そんな叫んだりしません」
二人が軽くパチってる。
本気の喧嘩ではないようだけど、たしかに死活問題だ。
「菜月、冬子」
俺が呼びかけると、二人は揃って俺を見た。
「じゃあこうしないか? 人前で、相手がしないような行動をした者は罰ゲームとして、相手の言うことを一つ聞く」
我ながら良い提案だ。
これなら、二人とも相手の演技を頑張るしかない。
命令権なんて与えたら、二人とも容赦しなそうだからな……。
「さすが兄さん、名案です。ただし」
「罰ゲームはなー。別に冬子に命令しても仕方ないし、ご褒美が欲しいっていうか」
「相手が失敗したら……つまり勝者は兄さんに一つお願いできる、っていうのはどうでしょう?」
「つまり、彰人を独り占めできるってこと!」
二人が交互に提案してくる。
さっきまで喧嘩してたのに、急に息ぴったりじゃないか……。
「……なんで俺?」
それ、一番の被害者は俺なんじゃ……。
「提案者なんだから、協力してよー。ふふふ、買ったらデートしてもらおっと」
「っ、させません! 兄さんとの時間が懸かっているなら、絶対負けません」
二人は既にやる気を出している。
必死だな……。
俺との時間なんて、そんな大した価値のあるものには思えないけど。
「まあ、それで演技をちゃんとしてくれるなら……」
そうして、ルールが策定された。
相手が演技に失敗したら、勝ったほうは俺に命令できる。
判定者は俺。
俺に得がないんだけど……?
「あ、もう学校だ! 彰人、教室行こ!」
元気よく叫んだのは……冬子だ。
「兄さん、またあとで」
少しぎこちないけど、にっこり微笑む菜月。
うん、一応演技できているな。
特に菜月は心配だったけど、この調子なら大丈夫かもしれない。
でも、間違っているところもある。
「冬子、菜月。……下駄箱逆だぞ」
二人とも間違えたからご褒美はなしってことで。
幼馴染と義妹の中身が入れ替わったら……? 二人とも距離感がバグった。 緒二葉@書籍4シリーズ @hojo
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