第31話

 ドアについたテンキーに0823と打ち込む。

 カチャンと音が鳴って鍵が開いたのがわかる。


 部屋は先ほどと同様に真っ暗だったが、本棚に囲まれた部屋の真ん中には後ろ手に縛られた春香の姿があった。

 意識がないと見てわかるほどに、ぐったりとしていた。一応心ばかりのクッションが頭を支えているだけで特に何もされていないように見える。


「春香。」


 春香の肩に触れ、軽くゆすりながら声をかける。


「春香、起きて。」


 ゆすっても起きる様子はなく、おそらく薬品か何かで眠らされているのだろうとあたりを付ける。

 腕は麻縄で縛られており、麻縄と肌の間にタオルを当てることで肌に跡が残らないように配慮をしているようだった。


 腕と足の麻縄をほどき、春香の拘束を解く。

 眠ったままの春香をお姫様抱っこして、先ほどの部屋に戻ることにした。




 三人のいる部屋に戻った俺は、入口すぐにあった椅子に座らせ、上半身を机に突っ伏した状態にした。

 胸が机に押しつぶされ、少しばかり苦しそうだが仕方がないのでそのままにする。


「春香を連れてきた。」


 衝立の奥に入り、春香のことを告げた。

 三人の状況は俺が出ていく前と変わっておらず、話も進んでいないように見える。


「あぁ。

 さっきの続きだが、まずは相場さんのお父さんに連絡してみるのがいいと思う。まずは不確定要素を確定要素にしたい。

 知らなければ、何らかの対処をしてくれるだろうし、ご家族の要求を突っぱねることもできるようになる。

 逆に、知っていれば父親と交渉をすればいいだけだ。」


 俺が帰ってきたことで、話がまた進み始めた。

 わざわざ、俺を待っていたようだ。


「でも、父に連絡したことなんてないし、それに交渉するって言ったって、何を材料に…。

 私は父が欲しいものなんて一つも持ってないよ。」


 相場さんと家族の溝は思ったよりも深いようだ。


「とにかく、相場さんのお父さんが同意していたパターンについてはわかってから対策を練ればいい。

 それに、交渉の材料にできそうなものに一つだけ心当たりがある。」


 愛原君がそういうのならばそうなんだろうなと思う。

 おそらく、俺や相場さんが知らないことを愛原君と直人は知っている。ならば、この二人を信用して任せようというのが俺の判断だ。


「とにかく、愛原君の言う通り、相場さんのお父さんに連絡してみよう。

 情報が増えない状態で話し合ってもいいことを思いつくとも限らないし、電話してみれば婚約の理由とかが分かってなんとかできるかもしれないし。」


 直人は俺の親友だ。ならば、俺は直人を信じる。

 そして愛原君を信じる。それが俺の判断で、それでダメなら、その時は俺がなんとかしようと決意した。

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大好きな幼馴染がほかの男にとられないように頑張ります 完成された欠陥品 @kanseisaretakekkanhin

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