38,567回目のプロポーズ

はに丸

38,567回目のプロポーズ

「結婚してください」

 僕はケーコちゃんに三万八千五百六十七回目のプロポーズをした。

 こう言うと僕が毎日毎時間しつこく結婚結婚と言っているように聞こえるかもしれなけれど、もちろん違う。プロポーズはやはり一度がいい。

 と、いうことで、最初のプロポーズの思い出を語るね。


 僕とケーコちゃんはいわゆる幼馴染みというやつ。お隣さんというわかりやすい設定だと思ってよ、いや別に二次元の話はしてないけど。

 気づけばケーコちゃんはいて、僕はモノゴコロついたときから、ケーコちゃんにぞっこんだったし、結婚しようと思ってた。

 あ! この時はケーコちゃんに結婚してって毎日言っていたかも! まあ子供の頃だから時効にしてよ。きちんと結婚できる年になってからのプロポーズ一回勝負ってことで。


 ケーコちゃんはとっても頭がいい女の子で僕にいろんなこと教えてくれたんだよね。僕はぼーっとしているってケーコちゃんはいっつも面倒みてくれて。愛の女神だよね。

 僕はケーコちゃんに喜んでほしくて、色々覚えて一緒におはなしできるようがんばったんだ。そうしたら、なんか施設に連れて行かれて、ペーパーテスト受けた。

 え? いつだって?

 小学校入ったくらいかなあ。

 なんか僕のIQ、普通より高かったらしいよ。まあそんなことはどうでもいい。

 そのころ、ケーコちゃんはSFアニメにはまってて、時間旅行してみたいって言ってたから、僕はタイムマシンみたいなの作ろうって決意した。

 え?

 もちろん、小学校入ったときね。それを言ったら、ケーコちゃん喜んでくれたんだよね。そして好きって言ってほっぺにキスしてくれたんだよ、愛の女神だよね。

 僕はどんどん色んな知識を覚えて、ケーコちゃんと同じ学校追いかけてずっと通ってて、大学も同じところに行こう! て言ったら、ケーコちゃんも頑張るって一緒の大学。受験勉強のときに、がんばるケーコちゃんかわいくて、絡んでついでにバージン貰ったのは役得だった。

「こんな適当なの、やだあ」

 終わったあと、泣き出したケーコちゃんマジかわ。僕はよしよしして、かわいいかわいいって撫でた。ケーコちゃんマジ愛の女神。

 僕は大学から大学院、ケーコちゃんは就職して先に大人の仲間入り。僕はモラトリアム満喫しながら、研究してたんだよね。院を卒業しても大学にいていいってことになってラッキー!

 それでさ。研究はもちろん、時間旅行とか巻き戻しとかの基礎。けっこう大変で。とくにお金。

「なになに、お金に困っているのかい? じゃあおじさんが援助しよう!」

 なんとあしながおじさん登場。どっかの会社の社長か役員か忘れたけど、大金持ち。

「そのかわりうちの娘と結婚すること」

 えっ。じゃあいらなーい!

 と僕は断ってケーコちゃんのところに行った。だってその日にプロポーズするって決めてたから。

「結婚してください、ケーコちゃん。僕は君を幸せにしたい」

 ド定番こそ王道。僕は素直な心のままケーコちゃんに申し込み、指輪を渡す。僕はもうケーコちゃんの体の寸法全部頭に入ってるから、一人で指輪も頼めたんだぜ。ケーコちゃんの体は最高の黄金律だと僕は思ってる。愛の女神だからね!

 ケーコちゃんはとても仕事してて、ちょっと疲れた顔をしていた。僕の言葉にびっくりしたあと、

「今日は疲れてるから、明日でいいかな?」

 僕の最優先はケーコちゃんだから、もちろん頷く。そして、翌日もういちどケーコちゃんの家に行った。


 ケーコちゃん死んでた。

 首吊って死んでた。

 僕宛ての遺書とかあって、自分は平凡な普通の人間で、僕は天才だから邪魔したくない、大金持ちとの結婚を選んでほしい、もう一緒にいるのがしんどかった、わたしを忘れて幸せになって。


 酷いよケーコちゃん。


 あのね、そーゆーこと言われて、はいわかりました! て他の女の股ぐら覗く男、いないからね!?

 自殺した人を忘れるとか普通ありえないからね!?

 ケーコちゃんの僕を思いやる気持ちはありがたいけど、残された僕はその場で泣きながらケーコちゃんに土下座して、それでも体が足りなくてゲロ吐いちゃったんだよ、そのくらいもう世界壊れた。


 僕は自分ち帰って、作ってた時間巻き戻し装置使った。

 大金持ちと結婚しろってことは、僕が金持ちになれば、ケーコちゃんと結婚できる!

 そういうことで、子供のころに戻って、同じようにケーコちゃんと育って、同じようにバージン貰って、そうして僕は某米な国へ行った。そこで、経済的成功をして、大資産家、もう座ってても金が入ってくるぜ! というくらいの金持ちになった。

 で。帰国して、

「結婚してください、ケーコちゃん。僕は君を幸せにしたい」

 て今度は前よりすっごく高い指輪を贈った。

「ありがとう。いきなりだったから、明日返事でもいい?」

 上目使いに聞いてくるケーコちゃんマジ愛の女神。かわいすぎて明日ね! てしたんだ。


 次の日ケーコちゃんまた死んでた。

 首吊って死んでた。

 僕宛ての遺書とかあって、自分は平凡な普通の人間で、僕は天才でお金持ち、釣り合わない。わたしはきっと苦しくなる。わたしを忘れて幸せになって。


 酷いよケーコちゃん。


 金がない僕はダメで、金がある僕もダメなの!?

 いや、僕は諦めない。何度でも、プロポーズして、結婚しよう、平凡で幸せな家庭を作るんだ。


 そこから、色んなことを試したけど、ケーコちゃんは翌日に死ぬ。首を吊って死ぬ。

 幼馴染み以外のルートをやってみたら、僕をカメムシを見るような目で睨み、

「近づかないで。生理的に無理」

 とか言われてしまった。いやそれでも結婚まで持ち込もうとしたら、プロポーズの翌日に死んじゃったんだよね……。これしか逃げる道はないって遺書、酷くない!? 僕のところに逃げてよ。


 そうして、三万八千五百六十七回目。

 僕は、あらゆるものを捨てて、ケーコちゃんにプロポーズする。IQとかどうでもいい。お金もいらない。ケーコちゃんだけでいい。僕は会社から帰ってきたケーコちゃんに、高校生が買うような指輪を渡して言った。


「結婚してください、ケーコちゃん。僕を幸せにしてください」


 バリキャリ高収入のケーコちゃんは、無職で貯金無し能なし学歴無しの僕をきょとん、と見たあと、


「そこは私を幸せにしてくれるんじゃないの? ばかねえ、いいわよ。わたし、あなたのこと愛してるもの」


 と、ようやく答えてくれた。


 努力が報われて、良かった! 僕は死ぬまでケーコちゃんに幸せにしてもらえるんだ、めでたしめでたし!

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