終話 少し長い話

終話 少し長い話

 ハーキアで選抜の儀を終えたガーレイドは帰国してから真っ先に玉座の間へと向かった。


「お待ちくださいガーレイド様、なぜこのように性急な」


「直接見てきて確信した。もう〝魔女〟は『四枚』の人心を十分に掌握してる。あそこの信仰対象はもうクレアムじゃない。魔女の頭領だ。蜂起の日は近い。今すぐ貧民を支援する政策を打ち出さないと。もしこの申し出が却下されたなら、僕は父上であっても容赦しない」


 数週間後、クレアムルの王は急逝、王妃は病んで床に伏す。王座に着くはガーレイド。





 フレシア家の食堂。ガルは〝魔女のよすが〟のメンバーを集めた。


「私たちが中央教会を倒すのに、まずクレアムルという国を盗るのは必須です。そのためには『四枚』の虐げられた者たちの力は欠かせない。しかしクーデターを起こすには調整が間に合っていない。私が〝神〟になるには、まだ少し時間がかかる。貧民街を救うのは、魔女でなければならない。私たちは戴冠式で、ガーレイドを暗殺します」


 ――シワス。あなたの仇も。私が必ず。





『ええ、私、次は、絶対に、あなたを殺す』


 カリザはハッと目を覚ます。椅子で寝ていたカリザをオニクスが正面から覗き込んでいる。


「カリザ、お疲れだね。うなされてたよ。みんな集まったから、目が覚めたら来て」


 カリザは痛む頭を薬で治めて大部屋へ向かう。〝銀の翼〟の面々の前に立つ。


「……よし。みんな引き締めていこう。戴冠式。ガーレイド様の命は、俺たちが受け持った」


 ――悪夢を振り払うために。来たれ魔女の頭領。





 エールはキルリの部屋を掃除しながら、戴冠式に向けてウキウキしていた。


「絶対に魔女は現れる。そして銀翼と衝突する。また一人、魔女を私のものにするチャンスだわ。ねえ、キルリ?」


「そうだね。今回ばかりは僕も……全力で協力するよ。ガーレイドは一線を越えた。いくら大義があったって、肉親を手にかけていい理由はない。僕はこの戴冠式をひっくり返す」


「カッコいいこと言う前にこのゴミ部屋をどうにかしてくれない? あなたの生活力の無さは何なの? いつになったら改善されるの?」


「僕は元・王子様だよ? 身の回りのことなんて、できるようになるわけがないだろ」

「元だからできるようにならなきゃいけないっつってんだけど!?」





 夜の酒場。アノールとヨルノはカウンターに並んでグビグビと飲み進める。


「ねえアノール、これ負け戦だよ。ガーレの対応が早すぎた。一緒に逃げちゃおうよ~」

「それもいいけど……でも僕はこの四年でガルに借りをたくさん作っちゃったからなあ」

「本当にそれが理由?」


 ヨルノは赤くなった頬を机にペタッと着け、トロンとした目でアノールを見上げる。


「レオンくんと戦うのが楽しみなんじゃないの?」

「ああ――。……そうだね。そうだよ。楽しみだけど!? 僕がレオンをぶっ潰すのを夢に見なかった日は無いからね!! あー楽しみだわ! 絶対に勝てないと思うけどね! 畜生!」

「いいね~。最高に小者っぽくて好きだよ~」





 レオンはオニクスの部屋に招かれていた。二人でエプロンを着て一緒に料理を作る。


「ふと思ったんだけど。レオンって大義とか無いよな。私も人のことは言えないけど」


「そうだね。当面の目標はアノールとエールの再会を見届けることだし。というか俺に限らず、アノールとエールにも大義なんてないはずなんだけど。今もなお幼馴染のこじれの構図は変わらないのに。なんでこんなことになっちゃってるんだろう……」


「エールがギラフに持っていかれたのは信じられなかったよ……私のエールが……」


 二人はうなだれながら料理を作る。テーブルに運んで手を付ける。レオンが閃く。


「……え? オニクス×エール? それはちょっと新しい組み合わせだな……」


 オニクスはドン引きしながらステーキをナイフで切る。ため息をつく。


「……私が一緒にいて不可能なことなんてない。安心しな。いつかは二人と会える」


 ――そうだな。いつかは。いつかきっと、俺は二人を引き合わせてみせる。それを果たすまで、俺たち三人は、四年前のあの日にずっと捉われている。次へ進めない。


「ありがとうオニクス。でも、時間はかかりそうだな。少し長くなるかも」


 レオンは苦笑した。オニクスはステーキをゴクリと飲み込む。


「まあ、私が付き合うにも限度があるから、できるだけ早く終わらせてくれよ?」

「ああ、頑張る。そのときまで、よろしく、オニクス」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カプ厨の俺がお似合いな幼馴染を引き合わせるまでの少し長い話 うつみ乱世 @ut_rns

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ