第2話
昨日の雨が嘘のような晴天。そそり立つ鉄塔で椋鳥がひとり寂しく鳴いている。陽炎の立つ通学路を歩く。学校まではこんなにも遠かっただろうか。拭えども滴る汗に気力は削がれ。口の中が乾き喉が音をたてる。隣を歩く沙智の汗ばんだ首筋が目についた。
「あぁ。美味しそう」
口をついた言葉に驚き手のひらで覆う。
「伊織、何か言った?」
「ううん。何も」
咄嗟に違うと答えたけれど。本当に今のは聞こえなかったのだろうか。口走った言葉に戦慄する。心臓が肋骨を圧迫するほど暴れていた。なんであんなことを言ってしまったのか。落ち着かせようと深呼吸する。沙智に不審に思われたりしていないだろうか。心配になり確認すると。横を歩く沙智のまつ毛から陽の光が溢れ落ちた。ゆっくりとこちらを見る薄茶の瞳。薄いシャツから覗く肌。時間が止まってしまえばいいのに。衣擦れの音が聞こえ蒼い匂いのする風が吹いた。揺れるスカートから垣間見える柔らかそうな白い足。果物の皮に似たその皮膚に歯を当てればきっと。果汁のように滴る液体が喉を潤す。芳醇な香りが鼻腔をくすぐり幸福に包まれる。想像しただけで涎が出てきた。気づかれないように顔を背ける。口を拭うとカーブミラーに映る自分と視線が交差した。その口元はだらしなく緩み。卑しい笑みを浮かべていた。
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