第13話 一方・・・・・・

「何勝手なことしてるの? これはあたしのことだから、お父さんは関わらないで!」


 家に帰ってすぐさまお父さん黒岩正二あたし柚香は言い放った。


 ついさっき、あたしは通っていた大学がある九州から、東京の実家に帰ってきた。

 家の前まで来た時に、ダイニングにある大窓からお父さんが「清水さんが面談に来たから、ダメもとで柚香の件について頼んでみたんだが・・・・・・」と話しているのを聞こえて、あたしは怒りと焦りがこみ上げ、急いで玄関に入ってお父さんに怒鳴った。


 晩酌をしていたのか缶ビールを片手に持ったお父さんは、普段の落ち着きが全部吹き飛び、目を見開いている。もちろんお母さんも目を丸くしている。


「柚香!? なんでここに・・・・・・大学はどうした?」


 ——ああ、大学やめたのまだ言ってなかったんだっけ。まあいいか。


「そんなことより、何? 萌恵ちゃんに会って、あたしの何を頼んだわけ?」


「・・・・・・とりあえず柚香。荷物を置いてきなさい。落ち着いて話そう」


 この一瞬で落ち着きを取り戻したお父さんに諭され、しぶしぶ荷物を自室に置きに行く。


「・・・・・・ただいま、あたしの部屋」


 小学生の頃からほとんど何も変わらない自室。数少ない変わったものと言えば、パソコンが置かれたことと、クローゼット内に掛けてある服が変わったくらいだろうか。


 部屋に入ってすぐの床に、スーツケースとリュックを投げ捨てるように置き、すぐにダイニングへ戻る。


「柚香、ご飯はいる?」


「いや、いいよ。けど明日の朝からは出してほしいな」


 お母さんが急に帰ってきたあたしにもご飯を作ってくれようとしたが、断る。ついさっきラーメン食べてきたからね。


「で、お父さん、詳しく説明して」


 あたしはお母さんが出してくれていた椅子にドカッと座り、腕を組んでお父さんをにらみつける。


「ああ。実は今日、父さんの事務所に清水さんが面接に来たんだ。選手になりたいって。その面接担当が父さんだったんだが、面接のときに『柚香を許して、マネージャーに置いていただけないでしょうか』と頼んでみたんだが・・・・・・駄目だった」


「そりゃそうだろうね。あと勝手にあたしのことをマネージャーにしようとか言わないでくれる?」


 あたしは冷たくお父さんに言い放つ。


 はぁ・・・・・・お父さんはいつもこうだ。あたしがあの件で――萌恵ちゃんへのいじめが発覚して、その後ずっとあたしのことを心配して過保護になっている。それも、落ち着きが無くなって常識が欠けるレベルに。


「ああ、すまなかった。けれど、信じなくてもいいが、言わせてくれ。一応父さんは柚香のためになるかと思って頼んでみたんだ。悪意はなかった。」


「その言葉、何度目? もう聞き飽きたんだけど」


 お父さんの口癖「柚香のためになると思った」。「柚香のためを思って――」とか、そういうのよりは恩着せがましさなどは感じないが、ここ十年以上この言葉を聞いてきたあたしにとっては一番イライラする言葉だ。


「まあ・・・・・・とりあえず何があったかは分かった」


「そうか・・・・・・ところで、なんで柚香は帰ってきたんだ?」



「・・・・・・はあ?」


 お父さんが素っ頓狂な声を出す。お母さんもまた目を丸くする。


「柚香、大学はどうしたの? やめたってこと?」


「そういうこと。あたし、もう仕事に就いたから」


「・・・・・・柚香、そういうことは事前に相談して、ちゃんと確認を取ってから――」


「それはごめん。だけどさ、あたしに合わなかったんだよ、大学」


 所詮は学校、高校の延長。大学からは進学する人も少ないため、教授のやる気も低い。こんなところで学ぶ必要性があたしには感じられなかった。こんなことをするぐらいなら、さっさと直接ができる方法を探した方がいい。


「だから、今月から《MafiNお父さんのとこ》に入ったの」


「・・・・・・はあ!?」


 お父さんがまたまた素っ頓狂な声を上げる。


「え・・・・・・それって――」


「ほら、新プロジェクトってことでVTuber事業始めたでしょ? だからそこの一期生として、ね」


 《MafiN》の新グループ《Ideal Color》。「キミは、好きなように変われる。キミには、キミの色がある」と謳うVTuber事務所で、すでにYouTuber事務所とプロゲーマー事務所を持つ《MafiN》にとって三つ目の事務所だ。


 実は、あたしはしばらく前から大学をやめて就職することも考えていたのだが、いじめをしてしまっていた経歴から今まで受けた企業はことごとく落とされてしまった。


 だから、ダメ元で受けたこの《Ideal Color》の書類選考に受かったときは嬉しかった。あたしが《Ideal Color》で頑張って、何かを視聴者たちに与えられれば、きっと何かの償いにはなるから。


 けれど、萌恵ちゃんが《Harbinger》に入るのなら、あたしの目的は変わる。


 あたしは萌恵ちゃんを、「柚香ではない友達」として助け、罪を償う。


「もちろん、石田社長には全部話した上で受け入れてもらえた。できる限り例の件は広めないように努めるって言ってもらえたけど・・・・・・なんかズルい気がしてもやもやする」


 あたしは萌恵ちゃんの苦しみを大して味わうことなく過ごしている。確かに若干脅しっぽくいじめを強要されていたと言えるが、結局は断れなかったあたしの意思の弱さが原因だ。守られるような存在ではない。


「・・・・・・柚香。相談することを覚えなさい」


 お父さんは呆れたようにつぶやく。


「分かった分かった。あ、それと、あたし明日には借りてるアパートに引っ越すから、家に関しては心配しなくていいよ。というわけで話は終わりだね。お金はもう自分で稼げるし」


「柚香・・・・・・」


 あたしが立ち上がり、ダイニングから戻ろうとしたが、言っておかなければならないことを思い出し「あ」とつぶやいて振り向く。


「それと、もうこの問題はあたしのだから」


 もう、自分でどうにかする。だから・・・・・・


「お父さんはもう、関わらないで」


 もう二度と、無駄に助けられることが無いように。縁を切る覚悟でお父さんをにらみながら、あたしは言い放ち、部屋に戻った。



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 どうも、びぃふです。

 僕が出るのが毎度おなじみの光景になってきてますね。


 投稿した翌日に思ったのですが、この話、現12話の後にした方が絶対バランスいいですよね。

 それにもかかわらず、愚かなびぃふは現12話の前にこの話を入れておりました。

 ということで12話と13話の順番を入れ替えました。旧12話を読んでから13話が最新だと思ってこの話を読んだ方、大変申し訳ございません。土下座ツチペロペロ。

 代わりにと言っては何ですが、こっからしばらくペースを上げようと努力します。

 目標は8月ぐらいで1章完結です。ちなみに2章以降の構想はストーリー全練り直しの煽りを受けて全くございません。土下座ツチレロレロ。


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 あとがきその2です。というか宣伝です。

 実は私、今年から高専生なんです。

 なのでこの度、カクヨム甲子園になんか出してみようと思いまして。

 ということでサイレント/ストリーマーはしばらく投稿ストップする可能性が高いです。1つ目のあとがきと矛盾するようですが、8月くらいで1章完結は本当に目指してます。信じてください。


 サイレント/ストリーマーを出すことも考えたんですが、ロング部門でも20000字以内の制限かつ完結済みの必要があるので、短めのやつなんか新しく作ってみます。


 ……1話2500字として、8話で納めるの難しいです。けど頑張ってみます。

 もし甲子園用のが出たら、そちらも応援お願いします。足なめますからペロペロ。


 

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サイレント/ストリーマー びぃふ @Bief

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