おまけ クッキング

 最近、ミヤの様子がおかしい。


 「配達です」、と言って頼んでもないペット用品を持ってきても家には絶対入らない。水曜日のランチをしても、付き合う前の様にツンツンしている。


 この間の膝枕が悪かったのか? あんなに可愛かったのに……。


 なんとかあの時みたいに親密になれないかな。



 も〜、ジュウトが素敵すぎて目が合わせられない! この間の猫のマネ……。もう出来ない。あんなの。……あれは雰囲気に流されたの。いつも気を確かに持つのよ、ミヤ! 猫のマネ禁止だからね!



 ランチを食べながら、僕はデートの提案をした。


「いつも水曜日ランチ楽しいけど、今度仕事終わりに会わない? おいしいレストラン行こうよ」


「あのね。ほら、私住民票とかまだないじゃない。だから、仕事終わりは真っ直ぐ帰らないと、義父母りょうしんに心配と迷惑がかかるの。ごめんね」


 そうだった。僕は話題を変えようとさらなる提案をしてみた。


「じゃあさ、今度の水曜日、ピクニックにいかない? バスに乗って、隣町の公園まで」


「ピクニック? 行きたい」


「夕方まで帰れるように計画するから。それでいい?」


「うん。あっ!」


「どうしたの」


「ピクニックって、女の子がお弁当用意するのよね。止めよう、ピクニック」


「……なんで?」


「料理出来ません……」


「そんなのいいよ。何が買ってくれば」


「そういうわけには……」


 何かこだわりがあるのかな? でも誘った時は嬉しそうだったし……。そうだ!


「だったら一緒に作る? お弁当」


「いいの! ジュウトお弁当作れるの?」


「サンドイッチくらいなら、すぐ作れるでしょ。朝9時頃来れる?」


「大丈夫。ふふ、楽しみ」


「じゃあ、楽しみにしてるね」


 ランチ後、少し遠回りして家まで送った。よかった。ミヤの笑顔が戻って。家にも入るキッカケができた。


 ……この時の僕はミヤの料理のセンスのなさを甘く見ていた。


◇◇◇


「エプロン、これでいいかな?」


 いつもの仕事用のエプロンではなく、買ったばかりのフリルの付いた真っ白のエプロンを着けてミヤは、僕を見つめた。


「かわいい」


 つい本音が声にでた。真っ赤になりながら「よかった」と呟いたミヤは本当にかわいい。


「こういうの好きかなって思って……」


 上目遣いで僕を見るミヤ。わざとなの! 天然? いつも思うけど、ズルいくらいのかわいさにやられてしまう。


 「じゃ、じゃあサンドイッチ作ろうか。マーガリンにマスタード入れて大丈夫? じゃあ、そんなに辛くないようにマーガリン混ぜて塗るから、ミヤはきゅうりを輪切りにしてくれるかな。包丁とまな板はそこに出してあるから」


 チューブのマーガリンを小鉢に入れてマスタードを取ろうと顔を上げた時、ミヤが持つ包丁の握り方に殺気を感じた。


「ちょっ、まっ!」


 ミヤの背後にまわり、右手首を掴んだ!


 ミヤは左手の中指を、きゅうりの形に添わせて置き、思いっきり包丁を振り上げ、叩きつける寸前だった!


「危ない! それダメ! 指詰める気⁉」


 間に合った~。ほのぼのクッキングがサスペンス劇場になる所だった。


「えっ? どうしたの?」


 腕を掴まれて照れているミヤ。包丁落とさないでね!


「落ち着いて。包丁握ってて。そう。そのままだと指切っちゃうよね。いい、左手はこうして猫の手を作って」


右手首を抑えたまま、背中越しに左手を握る。猫の手の形に包み込むように握ったら、手を離してきゅうりの上に添えさせる。


 「包丁は、振り下ろさずに、指の所に当てて、そう、刃が当たらないように。そこからすーっと前にスライドさせると切れるから。力抜いて」


 僕は右手を手首から、包丁を持つ手の指に移動させて、一緒に包丁を包み込むように握りながら、包丁の軌道を教えた。


「凄いね。ジュウト。でも、恥ずかしいかも……」


 言われたら邪念が入った。後ろから抱きかかえてる! ミヤと密着してるよ。包丁を落とさないようにゆっくり離れた。


「じゃ、じゃあ、きゅうりは僕が切るから、ゆで卵剥いてくれる?」


 包丁は二度と触らせまい。そう決めて安全な作業に変更した。


 トントントンとリズムよくきゅうりを切っていたら、「グシャ」という音。まさか……


 ミヤがゆで卵を右手で握りつぶしていた。


「うん。パンにマーガリンを塗ろうか」


 ミヤは涙目で「ごめんね」と言った。その姿もかわいいけど。大丈夫?この子。


 別にマーガリンなんか均一に塗れていなくても大丈夫。って力入れない! 軽く伸ばせばいいから! 白いとこめくれてる! パンに穴あけないで!


 手伝いはもういいよ。無理しないでねって言ったら、涙目になった。「役立たなくて嫌われた」って。嫌わないから。大丈夫だから。じゃあ、パンにスライスチーズときゅうり並べて。置くだけだからね。バランスとか気にしないから。


 なんとか出来ることを見つけて、ぼくはタルタルソースをつくった。ゆで卵剥くのに時間がかかる。潰されてるから殻が細かい。なんとか剥き終わった。ゆで卵を潰して、マヨネーズを入れて、刻んだらっきょうを入れて混ぜる。


 ミヤがこっちを見ている。やりたいの? こぼさないでね。ゴムベラを渡して場所を譲った。


「ゆっくり混ぜたらいいから。あっ!」


 案の定中身がピュっと飛び出した。前にいた僕の頬に付いた。少しでよかった。


 「あっ! ごめんね」


 ミヤは、人差し指で頬を拭って、タルタルソースを指ごと口に入れた。


 「おいしい。……ごめんね。もう付いてないかな」


 覗き込むミヤ。顔近いよ。


「大丈夫ね。…………ねえ、猫の挨拶って知ってる? こうするのよ」


 ミヤがそのまま鼻を鼻にくっつけた。すぐに離れたが、僕はそのまま硬直してしまった。心臓が壊れそう。


 「猫はね、こうやって挨拶するのよね。知ってた?」


 何も考えてないな、この。意識させたら恥ずかしがるんだろうな。


「猫の挨拶?」


「そう。猫はね、匂いで安心するのよ」


 ミヤは勝ち誇ったように、もう一度顔を近づけてきた。僕はミヤの頭に左手をおきミヤを見つめた。


 目を大きくして見つめ返すミヤ。動きがとまった。そのまま僕はミヤの唇に僕の唇を重ねた。


「これが人間の愛情表現だよ」


 僕がそう言うと、真っ赤になりながらミヤは僕をみつめた。


「好きだよミヤ」


「私も……好きよ、ジュウト」


 僕たちはもう一度、今度は長いキスをした。

 猫のミトがお幸せにと言う感じでミャーと鳴いた。


  ――――――――――――――――


コメント欄に寄せられた


「公園でデート 自爆 ご褒美」


より、作ってみました。


こえけん応募中なので、2万字までしか書けません。本当に最後です。(2万字)







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペットショップの彼女は みちのあかり @kuroneko-kanmidou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ