おまけ 元猫のプライド ミヤ視点

 ミト? えっ! 私のミヤのミとジュウトのト?! まるで二人の子供につける名前みたいじゃない!!!


 そう思った瞬間顔が真っ赤になったのよ。私はあわてて、充十の部屋から逃げ出した。


 お店に戻りながら頭を冷やす。せっかく家に入れてもらったのに、勝手に妄想して逃げるなんて……。変な子だと思ってるよね。どうやって謝ろう。っていうか、どうやって会おう。もう店に来てくれないかな……。スマホもないし……。


 そういえば、ジュウトって充十って漢字だよね。私のミヤは、本当は美夜って漢字なんだ。彼、知らないよね。カタカナだと思ってるよね。ミト・美十・ミト・美十…………。どっちもステキ! 私の名前、彼に教えないと……。どうやったら会えるの?


そうだ!


私は彼の家に行っても不自然でないやり方を思いついた。


◇◇◇◇◇


「お届けに来ました。エールペットショップのサイトウです」


 配達だったら家に行ってもおかしくないよね。配達だから。

 ドアを開けた彼は、「あれっ」て顔をしてる。やっぱり駄目だった?


「差し入れ。ミトによ! 猫缶持って来たの。……昨日は急に帰って、ごめんね」


 ああ……。なんでこんな言い方しか出来ないの! ダメダメだ〜


「いいのに。入る?」


 えっ! いいの?


「えっ! 届け物だからここで」


 あ〜〜なんで帰ろうとするの私!


「ミト、見ていかない?」

「……それなら、いいかな」


 いいかな、じゃない!入れ!!

 私は、きちんとした女の子に見えるように、靴を揃えるのを忘れないように家に上がった。


 彼の部屋に入ると、イスを勧められた。相変わらず優しい。彼がベッドに腰を下ろすと、どこからかミトが降りてきて、彼の脚にスリスリするとベッドの上の脚の間で寝転んだ。


 ミトかわいい! ってゆうか羨ましい。 あんなに素直にくっついて。 私には無理よね。


「もうそんなに懐いたのね」


「うん。ほらこうしても大丈夫」


 彼はミトの頭を撫でた後、アゴの下を撫でた。

 ゴロゴロゴロゴロ。ミトは目を細めて喉を鳴らしてる。なんか羨ましい。


「私も……触っていいかな?」


「いいよ。おいで」


 私はイスから立ち上がり、彼の目の前にいった。彼の顔が私より下にある。初めて、この角度。素敵ね。私は上体を倒してミトを撫でようと手をだした。あれ? 彼の目線が私の胸に……きゃっ!


 ミトがいきなり飛び退いた。私も思わず飛び退いた。


「もう。お店では仲良かったのに」


 ドキドキした! もしかして胸見えた!? あ〜 どんなブラしてたっけ今日! 男の子だもんね。気になるよね。


……………………うあ――――!恥ずかしい!!!!!


 私はまたイスに座った。なるぺく距離おこう。


「ねえミヤ」


「んっ、なあに?」


「ミヤって猫だったんだよね」


 嫌なの? 嫌いになった⁉


「そうよ。疑ってるの?」


 嫌いにならないで……。


「いや、猫の時ってミトみたいに、足に乗ったりしてたのかなって」


 なんだ。猫って信じてくれてるんだ。安心した私は、気が緩んで調子に乗った。


「もちろん! マー君の足の上に乗ったり、スリスリしたり、喉ゴロゴロしたり」


「そうなんだ。……ここ、乗る?」


 太腿ふとももを叩いた彼。

 乗るのそこに? 

 一瞬で顔が真っ赤になった。今、猫じゃないよ。どうやって?


「猫だったら普通だよね」

 

猫だったら? 普通?


「普通?……そうよ、猫なら普通ね。……ネコ…な…ら……」


 猫なら普通だけど……。もしかして、普通のってそれくらい当たり前なの? 友達いないから分かんないけど……。普通するの? して欲しいの? 胸見てたくらいだから。……そう。猫なら普通。猫になろう。元々猫だし。猫の時を思い出すのよ。


 彼の前に立ち、しゃがんだ。猫、ネコ、ねこ。私は猫! 猫のポーズって……。とりあえず、手を顔に……。恥ずかしい! どうしたらいいの! このままじゃ……


「にゃあ」


 …………

 …………


 あ、楽。にゃあだったらごまかせる。なんか話すより楽かも。ここからにゃあで誤魔化そう。


「にゃあ」


 うん。大丈夫。彼も満足してるみたい。ても、ここからどうすれば……。膝枕? 脚に乗るの? 猫じゃないからどうしよう。って言うか手! いつまでもこれはさすがに恥ずかしい。とりあえず、手を脚に乗せればいいかな。


 このまま、自分の手の上に頭を乗せよう。そうすれば、「なんちゃって膝枕」だよね。手しか触れてないし。私天才! 危機は乗り越えたわ。


「にゃあ」


 ほら、元猫として完璧でしょ! だから、もういいかな、離れて……。頑張ったんだよ、私。……あれ? 頭、撫でられてるの? 気持ちいいね。って恥ずかしい!


 私ほ、顔を上げて、「にゃあ」と言った。ヤバい。目が合ったよ。好き。ジュート大好き。


 ジュウトの手が私の首元に近づく。何? 触られるの? ゴロゴロ? 顎クイ? そのままキス?!!! 何? 私はどうすれば?!!! 考えるな、身を任せよう。…………その時!


 ミトが スタッ と割り込んで来た。


 びっくりした私も慌てて飛び退いた。


 一瞬でシラフに戻った私は、恥ずかしくて動きが変になってる。帰ろう。すぐに逃げよう。


「あっ、あのっ、お届け物終わりました。店にまどりましゅね」


 噛んだ! 噛みまくりだ!


 恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしいよ〜


 もう二度と猫の真似はしない。

 もう二度と膝枕はしない。

 もう二度と近づかない。


 大好きだから。



 その後、充十のして欲しいアクションは、大好きだからしないと決めたミヤの行動と一致してしまい、甘い甘いラブシーンは、二度と書けなくなったのでした。


………………………………………


 残念だったね。充十と読んてるお嬢様方。ミトのせいで終わりだよ。


 ミヤの妄想暴走のお話は、ここでおしまい。


 新たなシチュエーションを感想で書くとかしないでね!

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