おまけ 元猫のプライド
「お届けに来ました。エールペットショップのサイトウです」
ミヤが来た。お届け物? 何も頼んでないよ? 僕は急いでドアを開けた。
「差し入れ。ミトによ! 猫缶持って来たの。……昨日は急に帰って、ごめんね」
昨日? ああ名前教えた時の。
「いいのに。入る?」
「えっ! 届け物だからここで」
「ミト、見ていかない?」
「……それなら、いいかな」
ミヤは靴を揃えて上がった。一緒に部屋に行くと、ミヤにイスを勧め座ってもらった。僕がベッドに座ると、タンスの上からミトが降りてきて、僕の足の間で寝転んだ。
「もうそんなに懐いたのね」
「うん。ほらこうしても大丈夫」
僕はミトの頭を撫でた後、アゴの下を撫でた。
ゴロゴロゴロゴロ。ミトは目を細めて喉を鳴らしてる。
「私も……触っていいかな?」
「いいよ。おいで」
ミヤはイスから立ち上がり、僕の目の前まで来た。ミヤの顔が僕より上にある。上体を倒してミトを撫でようとすると、大きめのTシャツの隙間から胸が見えそう!
その時、ミトはスタッとタンスの上に逃げた。
「もう。お店では仲良かったのに」
ドキドキした! って言うかまだドキドキしてる。ミヤはまたイスに座った。
「ねえミヤ」
「んっ、なあに?」
「ミヤって猫だったんだよね」
「そうよ。疑ってるの?」
「いや、猫の時ってミトみたいに、足に乗ったりしてたのかなって」
「もちろん! マー君の足の上に乗ったり、スリスリしたり、喉ゴロゴロしたり」
「そうなんだ。……ここ、乗る?」
一瞬で真っ赤になるミヤ。
「猫だったら普通だよね」
「普通?……そうよ、猫なら普通ね。……ネコ…な…ら……」
普通って言葉にやたら反応するよね。からかうのはこれくらいに……えっ?
ミヤは立ち上がって僕に近づいて来た。ベッドに座っている僕の前でひざまづき、上目遣いで僕を見上げた。
僕を見つめるミヤ。なんとも言えない緊張感が走る。
目を離さないまま、両手をグーに握りアゴの下でくっつけた。
「にゃあ」
…………
…………
萌え⁉ これが萌えと言うやつなのか! 天然? アザトイの? なんなの?
「にゃあ」
僕は硬直したまま、(ああ、萌え死ぬってこういうことか)と意識を手放しかけた。
その時、ミヤの猫の手が僕の太腿についた。衝撃で気を取り戻した僕はそれでも動くことは出来ない。
ミヤはそのまま額を握りこぶしにつけた。頭が、顔が、僕の太腿に埋められる……
「にゃあ」
かわいい! かわいすぎる!
そして萌え! 最高の彼女! 落ち着こうか自分。気付かれないように深呼吸しよう。
ミヤを見ると、結んでいる長い髪が僕の太ももからベッドの側面へ流れている。綺麗な髪。思わず頭を撫でていた。ゆっくり、ゆっくり。なでなで。
「にゃあ」
と鳴いてミヤは顔を上げた。これは!!! もしかしてゴロゴロしていいのか⁉ ぼくはミヤの目を見つめながらゆっくりとアゴの下に手を……………
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
かけようとしたその時、ミトがスタッと割り込んできた。
慌てて飛び退くミヤ。顔を真っ赤にしてパタパタ動いている。
「あっ、あのっ、お届け物終わりました。店にまどりましゅね」
送る間もなく去って行ったミヤ。力が抜けてベッドに倒れ込んだ僕の横で、猫のミトが僕の足にくっついて寝転んだ。
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