『They couldn’t move on』解説③
さて、最後に大変野暮だとは思うが、作中の出来事を並べていく。生い立ちとまではいかないが、この作品の最初のアクシデントから。
約一か月前:ジャクリーン、引きこもる。
十一日前:ジャクリーン、使用人の入室を禁ずる。
六日前:セルウィン家乳母、ジャクリーンの命令を無視して彼女の部屋に入室。失踪を確認。
二日前:ノア、リリーホワイト邸にてオーウェンと遭遇。
――オーウェン、どこかのタイミングで夢遊病を発症。リリーホワイト邸のバルコニーから落下しようとする――
一日目:「私」、転生を自覚。マーガレットと会話・魔法を見せてもらう(ヒマワリを枯らす)。彼女によってリリーホワイト邸に案内される。食事ののち、南突き当りの客室に宿泊。夜中に鍵を持った侵入者を追い払う。
二日目:「私」、ミーハン家に行く。マーガレットはエリス・ゾーイの元へ家庭教師の仕事をしに行く。ノア、ミーハン家を訪問。「私」はオーウェンの身辺調査をするも、大した収穫は無し。マーガレット、エリスらに暴行される。
夜、「私」は、ウィルクス家のパーティーに参加。
マーガレットは、表で警備。
ハロルドによって、差出人がオーウェン・宛名がヴェロニカの手紙が届く。
「私」、一時間ほど、ラザフォードをはじめとした多くの女性とダンスする。
その後、バルコニーで転落しそうになったところを、ノアに助けられる。飲酒しつつの長話。帰りは、マーガレットとともに馬車。
――二日目のうち、どこかのタイミングでハロルドが殺される――
三日目:ヴェロニカ、リリーホワイト邸にて、ハロルドの死亡を確認。「私」、ミーハン家の書斎にて、この国の宗教における教典をはじめとした様々な資料を読む。
ヴェロニカ、手紙とハロルドの両耳を持って、耳千切りの魘魅の解除を依頼しにミーハン家を訪問。解除はできず、流産。
使用人サム、医者を呼ぶ。カルヴィン、ヴェロニカの服を無理矢理脱がし、肉体に魘魅の証拠が残っていないか、確認。サムからハロルドの訃報を聞き、オーウェンの無実が決定。
夜になり、「私」、散歩。
四日目:数時間ほど歩き、「私」はミーハン領を出て、セルウィン領に着く。ノア、✗✗✗✗✗神殿にて、朝の祭儀を受ける。
「私」、祭儀を終えたノアと遭遇・会話。彼の案内で神殿を訪れる。ノアの退席のあと、エリオット神官に、セルウィン家の墓を暴くよう頼む。エリオット、これを了承。墓堀り男を呼びつけ、墓を掘ってもらう。
――どこかのタイミングで、マーガレットが✗✗✗✗✗神殿を訪れる――
男、二十人分ほど墓を掘り起こしたあと、「私」を呼びつけ、鍬で殴打。驚いて近付いたエリオットを立ち上がれなくなるまで殴打。「私」、二度起き上がろうとして、背中二か所、ふくらはぎ一カ所を殴打される。
男、「私」とエリオットの身に付けたものから金銭を得ようと検分中。「私」、途中まで掘られていた墓を手で掘り進め、腕のようなものを発見。男に気付かれるが、マーガレットが男に炎の魔法を使って攻撃。
男が燃えた足で「私」を蹴り、火傷のショックで「私」は気絶する。
マーガレット、「私」を石造りの部屋に監禁。火傷以外の負傷を治す。
――どこかのタイミングで、ノアはオーウェンをジャクリーン殺しの犯人と断定。「私」の監禁場所に武器を持って、集団で攻め込む――
夜、「私」は目を覚ます。マーガレット、部屋に入って確認。物音から、部屋の外に戻り、何者かを殺害・傷害。
ノア、監禁場所のドアを開けようと衝撃を与える。
マーガレット、記憶を消す魔術を発動。
とまあ、こんな感じである。
時系列順に並べ直すとかなり長いが、作者が無駄に設定を詰め込みすぎなだけだ。詰め込めば詰め込むほど、その人物の行動に繋がるエピソードは嵩む。
『じんしん』だったら、これくらい詰め込んでも、把握できるようにプロットを書くけれども、『They couldn’t move on』ではプロットを書かない。あまり労せず、楽に書いた物語だからこそ、梅木仁蜂の入門編となり得るのだ。
しかし梅木、どこかのタイミングで、って言葉が好きすぎるらしい。その辺りの時系列は、登場人物の心情を決定しかねない重要な情報だから、読者の解釈によって揺れるのが面白い。
説明の曖昧な部分を書き手の技術の低さと見るか、謎と見るかによっても、この作品の不可解さは変わってくるだろうが、なるべく後者だと判断した上で、読んでいただければ幸いだ。
まさか、こんなに長い解説になるとは思わなんだ。読者の皆様、軽くて回りくどいミステリ『They couldn’t move on』本編と解説をお読みになっていただき、繰り返し、感謝を申し上げる次第である。
They couldn't move on 平宍仁蜂 @Umeki2hachi
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