第18話 トランサー
「で、これからどうするんだ?」
半球のバリアが消失した後、ローズの言葉で時間が動く。
「こんな悲現実なことをギルドに報告しても絶対信じてもらえないと思うんだが……」
あっ……そうだ、そう言えばそうだった。俺たちは表ではギルドからの名指しクエストと言う名目でアヴァレルキヤを訪れていたのだった。
いろいろありすぎてすっかり頭から抜け落ちていたリュートが冷や汗を流す。
まずい、何も考えていなかった。よく分からないが、流れで一件落着的な空気だったので本当に何も考えていなかった。
どうしよう……おそらくアヴァレルキヤにいた人物たちの中で生き残ったのが俺たちのみ。変な詮索や濡れ衣を着させられて上級貴族とかの力によって歴史の闇に消される可能性だっておおいにありえる!
『そのようなことが我が存分に力を貸そう』
も、燃える真紅!
『貴様が見つけた幸せを、今度は守り切ってみせる』
その時は頼む、相棒。
『ああ』
「取り敢えず、お前たちは身を隠せ」
心の中で会話をしていると、案内人のその一言で現実へと戻される。
「アフターケアまでするのが真の英雄だ。今回の件はことがことだしな、英雄らしからぬ裏工作で忙しくなりそうだ。いや、これも英雄の醍醐味か」
不敵な笑みを浮かべた案内人は二輪の乗り物に跨ると、目の部分に半透明の仕切りが付いたヘルメットを装着する。
「ここから一番近いのはアマゾネスの隠れ集落だな。あそこなら安全だ、アマゾネスが仲間にいるんだし匿ってもらえるだろう」
「なんでお前が集落の場所を知っているんだ⁉︎」
「英雄だからな」
その言葉を最後に案内人は走り出した。どんどん小さくなる身体が次第に見えなくなり、全員の視線がアマゾネスのローズへと注がれる。
「ローズ、本当?」
プイっ、とミレアから視線を外す。
「へぇ〜、この近くにローズの故郷があるんだぁ〜」
プイっ、とリータから視線を外す。
「…………」
「あああぁぁぁっっっ!!! 分かった分かった言うよ! ある! あります! 集落のみんなからは一発ずつ殴られる覚悟で連れて行きます! パーティーメンバーは大切
だからな!」
『と、言うわりには結構粘っていたけどねぇ』
「黙らっしゃい! てか、ずっと思っていたんだけど何だ、その盾は!」
全員の注目を集めたアブソーブオプションが、コホンっと声を整える。
『俺の名前はアブソーブオプション・マキシマムトリガー。主の新しい相棒さ、以後よろしくちゃんねぇ』
「アブソーブオプション・マキシマムトリガー、変わった名前だわ」
「というか、長いわね」
「いちいち呼ぶのが大変じゃないか?」
『あれっ⁉︎ 俺の名前が否定されている⁉︎ こんなに格好良いのに⁉︎』
どうやら早々に打ち解けたらしい。ミレアやローズならともかくリータにもこんなにあっさり受け入られるなんて……羨ましい。
「略して、アオマトなんてどうかしら?」
『嫌だ!』
「アブオプで良くない?」
『嫌だ!』
「マキトリでどうだ?」
『絶対に嫌だ!』
ニックネーム候補に次々に却下を出すアブソーブオプション。
「リュート、あなたは?」
「確かに、あなたが主なんでしょう?」
「主が名付けるなら文句はないだろう」
『ベリーナイスでスーパークールでグレイトな名前をカモンッ!』
「…………」
こんなことなら適当な候補を一つでも出しておけば良かったと後悔しながらも、リュートは考える。そして、ふと、
「トランサー」
「「「え?」」」
「俺はこいつの力で新たな変身が可能になった。だから、トランサー……なんて、どうだ?」
「「「…………」」」
みんなの顔色を伺うが、前向きではないようだ。
まあ、確かに本名のアブソーブオプション・マキシマムトリガーと近いとは全然言えないけれど……。
『いいじゃん、トランサー』
唯一肯定する声が聞こえた。
『機械的要素もあるし、変身要素もある。気に入った! 別に前の名前に固執していた訳じゃないしねぇ。俺の中で新しい風が吹くぜ!』
こいつ、俺が思ったよりいいやつからも知れない。
「まあ、本人がいいのなら」
「『人』でいいの? あれ」
「細かいことは気にするな」
三人も了承してくれたみたいだ。
良かった、と胸を撫で下ろした時、何もない荒野に一陣の風が吹いた。
「え? ……お爺……様?」
怨みと言う呪縛を引き千切ったリータ。
頼りになる新しい仲間のトランサー。
得るものはあった。
しかし、これもあくまで副産物なのだろう。
この旅で真に得るものを得たのは他ならぬリータなのだ。
そして、何を得たのか、どこにしまったのか。それはリータのみが知っている。
ドラゴンフォース ー真紅の運命ー 唐揚げ @Yuto3277
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